第37話 彼女はどこに消えたのか②
「迷子センターには連絡しましたか?」
「え? ああ、いや。まだだよ」
高瀬さんに連絡したり、近くを探していただろうから、やむを得ないだろう。すぐに見つかればよかったが、そうはならなかった。こうなると、案内所の力を借りる必要がある。
「じゃあ、慎さんはセンターへ。もう保護されてるかもしれませんから」
僕が促すと慎さんはこくこくと頷く。やや気が動転しているようだ。
センターに行くのは慎さんひとりでいいだろう。どのみち、他人の僕が行っても意味がないし、澪ちゃんでは新手の迷子とさえ思われる。
「その間、僕も澪ちゃんと一緒に捜索します」
「ありがとう。助かるよ」
慎さんは礼を言うと、駆け足で移動を始めようとする。その背中を慌てて呼び止めて、僕は尋ねた。
「あの、雫ちゃんがどこに行ったか、検討はつきますか?」
慎さんがいなくなる前にこれは聞いておかなくてはならない。探すにしても、やみくもに動き回ることになってしまうからだ。
「いや、そう言われてもね……。あと行きたい場所はこのアスレチックルームくらいしか聞いてなくて」
「そうですか……」
そうなると、ますます雫ちゃんがいなくなった理由は不可解だった。だが、それは今考えても仕方がない。
「あ、そうだ。『旅日和』にいたんですよね?」
僕の問いに、慎さんは怪訝そうながらも頷く。
『旅日和』には壁などの仕切りがない。棚はあるが、壁際と中央に少し置かれている程度。外からも中からも、周りの様子が伺いやすい店になっている。
この店にいたなら、雫ちゃんが通路を通れば目に入るのではないだろうか。逆に、目にしていないということは、雫ちゃんはそこを通らなかったということになる。
「ああ、なるほど……。でも、ずっと通路を見ていたわけじゃないからね」
慎さんの言うことはもっともだ。だけど、雫ちゃんのほうだって、お父さんの姿が見えれば声くらいかけるものじゃないだろうか。もちろん必ず通ってないということはできないけれど、探すための指針くらいにはなる。
アスレチックルームから出て左手……『旅日和』の方へ進んだ先にあるのは、男性向けのセレクトショップと下へ続く階段だけ。一階にいた僕もそちらからやってきた。
逆に、アスレチックルームから出て右手に行くと、複数の店舗がある二回の中央付近に近づいていく。ホビーショップなどもあるし、雫ちゃんが向かったとすればこちらの可能性が高いんじゃないだろうか。
「それじゃ、ひとまずこっちを探してみます」
そう言うと、慎さんは頷き今度こそ一階へと駆けていく。
澪ちゃんに視線をやると、彼女は指をかみ、俯いていた。その目元は歪み、眉間には深いシワが刻まれている。じっと何かを考え込んでいたようだ。
「澪ちゃん、行こう」
僕がそう声をかけると、彼女は顔を上げ無言のままこくりと頷く。
すぐ隣のアスレチックルームからは、はしゃぐ子どもの声が聞こえてくる。時折響くその甲高い声が、悲鳴のように耳に突き刺さった。
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