ファースト・コンパニオン
「とりあえず、自己紹介でもしようかね」
爽やか系の男の人がそう切り出した。
その茶髪は耳元まで伸びて、アイロンとドライヤーで上げて、柔らかいワックスでセンターパートの形に整えてある。
身長も高く、ガタイもかなりいいが、その童顔のせいか、ぱっと見、高校生ぐらいかな……。
でも、よく見ると、目元はきりっとアイラインが引かれ、コンシーラーで青髭などをきれいに隠してある。
耳に空いているピアスは、その横でタピオカを飲むギャルと同じものだ。
「俺は、塚野始。こう見えても国会議員だよ」
ぎょっとした。失礼だが、この人がそこまで優秀とは思えない。
私が、前にいたトー横でキャッチをしている男とかとたいして、見た目は変わっていない。
一言でいえば、尻の軽い有象無象の一人。そういう印象を持った。
そんな男が国会議員とは、世も末だ。
「で、こっちは……」
「挨拶ぐらい自分でできるし」
あ、見ただけでわかる……。
この二人、相性最悪なパターンだ。
容姿も、パキッと決まったスーツ姿の男と、ギャルの少女。
この時点で、いじめる側と、いじめられる側。みたいな雰囲気が漂っている。
「うちは、黒崎ユリ。さっきも見せたと思うけど、うちのステータスはほぼ全部Sなんだ~」
こっちはこっちで、あまり信用できなさそうな人だ……。
毛先を巻いて、ツインテールにまとめた黒髪。
メイクもかなり派手で、アイラインも、チークもシャドウもハイライトも、どれもきれいでどれも主役。でもすべてがすべてを強調している。こんなメイク、プロにしかできないレベルだ。
そもそもの話、この黒崎さんも、塚野さんも。一体どうして、こんな場所にいるのだろうか。
私は、心のどこかで、ここに居る全員を信用できずにいた。
瑛人も含めて……。
行き場のない私は、今ここに居る。
ただ、金が欲しかったから。
生きていくうえで、金は命よりも重い。
金がなければ、私たちは価値を持たない。
だから、ここに来た。でも、この人たちの目的も知らずに、仲良しこよしなんてする気はない。
慣れ合いは、無意識的に人を傷つけるから。
「あなたの名前は?」
ユリと名乗る、ギャルは、俯く私の顔を覗くように、下に潜り込んでみてくる。
その、上目使いは、ほんの一瞬感情が揺さぶられた……。
「その前に、あなたたちは、なんなの? 目的は? どうしてこんなことをしようと思ったの?」
「……」
その答えは、沈黙。私が信用できていないように、私もまた、信用されていないのだ。
なら、話は終わり。私はここに居る意味はない。
廃倉庫を出ようと思った時、腕を掴まれ、こう言われた。
「ちょっと、二人で話さない?」
不思議な感じだ。ギャルの目つきは、鋭い。
鋭いのに、優しい、顔をしていた。
「いいよ……」
そう、言葉をこぼす。あんな顔を見たら、断ることは私にはできないのだ。
*
廃倉庫から、少し離れた位置にある、小さなカフェ。
昔ながらの、レトロな雰囲気一目で、私はここが好きになった。
「うちさ、才能ないの。さっきも見せたけど……。だから、うちは虐められたの、いろんな人に……」
なんとなく、想像がつく。
才能がない人間は何もできない、無能。
それが、この世界の根本にある、癌。
「でもさ、才能が無かったから、うちはここまで来れた。負けず嫌いだから、いっぱい努力した。そのおかげで才能以外は誰にも負けないうちという存在になれた」
私が、
私が、ユリを認めたら、それは私を否定することになるから。
私よりも才能がない。なのに、諦めず、努力をし続けた。
じゃあ、私は、なにか、目に見える努力をしたのか?
いや、私は何も結果を残せていない。
「いまでも、恨んでるよ。このステータスのシステム」
アイスコーヒーをストローでチュウチュウと吸い。氷がカランカランと音を立てる。
「だから、うちはこのシステムについて調べたの。そして、全てを知った。だから、うちは、このシステムを壊す」
「は?」
「うちも、始も、瑛人君も。みんなこのシステムを壊したいって思ってる。でもさ、これって国の壊す大事件じゃん?だから、あんまり人に話せないんだよね」
「……私、ユリのことを信用する。でも、私はバカだから、私をユリの理想に導いて」
「もちろん!これからよろしくね」
ステータス・ライフ・ゲーム 猫宮いたな @itana
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