第7章: 「ルミス帰還」

氷蝕の最後の破片が砕け、辺りは静寂に包まれた。

「ほ、本当に倒したのか?」

「ええ。魔力核を破壊したから、完全に消滅したわ」赤髪の少女がマントを整える。「私はザラ」


マヤはその名を聞くと、腕を組んで表情を硬くした。

「やはり本当だったのね」

「何が?」

「雷魔法を使う者についての噂よ。『雷の声(かみなりのこえ)』ザラって呼ばれてる。魔法の雷鳴が由来らしいわ」

「ああ、その渾名」ザラは顔をしかめた。「いつからそう呼ばれたのか」。マヤを見て「炎の剣なら、あなたは『琥珀の炎(こはくのほのお)』のマヤでしょ」

「ふふん!」マヤが誇らしげに笑った。「そうよ。私の評判、こんな辺境まで届いてるのね」


二人が私を見つめる。

「僕は……煉」

重い沈黙が流れた。明らかに場違いな空気だ。

「ははは」ザラが軽く笑った。「面白い人ね、煉」

(今、僕は赤くなったか?)

「当、当然よ!煉は私のパーティメンバーなんだから!」マヤが割り込んだ。

「臨時のパーティじゃなかった?」

「あ!」マヤの顔が「忘れてた」と語った。


緊張が解けた。三人とも戦いの後の安堵に包まれる。

「ところで」ザラが私をじっと見る。「あなた、何者?魔力核が見えるなんて普通じゃない……私と同じ雷も使えるし」

「その……えっと……」(どう切り抜ける?)

「そうよ!最初は未熟な弱虫みたいだったくせに、次々と技を繰り出すんだから!正体は何なの?!」マヤも詰め寄る。

「とにかく!」話題を強引に変えた。「ドラゴンも倒したことだし、ルミスに報告しよう」

「ごまかさないで!」


ザラは何かを思い出したように眉をひそめた。

「そうね。私は明日までにルミスへ行かなきゃ」

「明日?でもここから三日はかかるよ」

「三日……?」彼女は悔しそうに俯いた。

「はっ!運がいいわね、雷娘さん」マヤが勝ち誇ったように巻物を取り出す。「転移の巻物があるの!ルミスの門まで一発よ」

僕は信じられない顔で見つめた。

「ずっと持ってたのか?!ドラゴンに殺されそうな時に使えただろ!」

「逃げるだと?!私は戦いから逃げない!それに、あのドラゴンなんて楽勝だったわ!」


ザラが面白そうに私たちを見る。

「仲がいいのね」

マヤの顔が真っ赤になった。

「そ、そんなことどうでもいいわ!早く巻物を使いましょ。条件は……手を繋ぐこと」私の手をちらりと見て躊躇する。

「問題ないわ」ザラはためらわず左手を握った(少し近づきすぎな気がした)。

マヤが爆発した。

「私だってできるわよ!」右手を岩をも砕く握力で握りしめる。

「痛い!マヤ、それ——」


転移!


視界が真っ白に染まった。次の瞬間、ルミス中央広場に立っていた。周囲の市民や冒険者、子供たちが驚愕の表情で見つめる。

「注目……浴びてる」小声で言った。「マヤ、門じゃなかったの?」

「い、今すぐ放してよこのバカ!」マヤが火傷でもするように手を離し、顔を真っ赤にした。「計算ミスよ」


ガシャン!

「いてっ!」植木鉢が頭に直撃。破片の中にメモが。

「不貞者」

ザラが身を乗り出した。

「大丈夫?」

「ああ……大丈夫」頭をこすり、空を見上げてため息をつく。

「……違うんだ、プリん」

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