にゃーん

ころこね

第1話


にゃーん


「ねぇ佐倉さくらちゃん聞いて!旧体育館近くにある祠の話なんだけど…」

秋も深まりそろそろ厚手の服が欲しくなったころ、友達の心音しおんちゃんが面白そうなことを話し始めた。

付箋がいっぱい挟まったノートを片手に。

彼女は怪奇現象が大好きなのだ。

でも、エイリアンとかUMAは苦手なんだって。

いつもはゆっくり喋るのにこれ(妖怪、幽霊)が関係すると、饒舌になり集中して聞いてないと聞き逃してしまう。

「…で、今日いこうと思うんだ。どうかな?」

ほら、ちょと考えていただけで話が終わってしまった。

「いいよ」 

なに言ってたか分かっていないけど、とりあえずそう答えた。 

聞けなかったところはまた後で聞けばいい。

危険な目に遭えば逃げればいい、アイツらを頼ってもいい。

ともかく、後少ししたらチャイムが鳴るから早く教室を移動しなくちゃ。


あっ、絵の具と画用紙忘れるところだった

眠たい国語の授業が終わり、やっと放課後がやってきた。

さっさと掃除を済ませて待ち合わせ場所の中庭に行く。

心音ちゃんはベンチに座って本を読んでいる。

私はそっと近づき、肩を軽く叩き、

「終ったよ」

と声をかけた。すると、心音ちゃんは本をしまい立ち上がった。

「佐倉ちゃん。行こう」

「うん」

バックを肩にかけ直し私達は歩き始めた。

「心音ちゃん、昼休みに話していた祠…?のこと詳しく話してくれない?」

絶対に聞いてなかったとは言えない。

「うーん?…分かりにくかったか。いいよ。じゃ、言うからちゃんと聞いてね」


友達の話なんだけどね。

先月、その子は友達と一緒に『祠の清掃』当番が当たったの。

「嫌だなー」「なんで、あそこ薄暗いんだろう」

「木がいっぱいあるからじゃない?」

って話しているうちに祠に着いたんだ。 

さて、掃除をしようとしたとき急に寒気が走って体調がどんどん悪くなっていったらしいの。

それだけじゃなく、に゛ゃーと低く唸る猫の鳴き声が聞こえたんだ。

怖くなった二人はその場をすぐ離れた。

おかしいよね?急に体調が悪くなるなんて。

他には祠がガタガタ揺れていたり、微かに黒いものが見えた…

「という感じ。佐倉ちゃん、これってあれだよね。幽霊か妖怪の仕業」

「そうだね。普通だったらあり得ないことばかりだから。―やっと着いた」

本当に薄暗い場所だ。木々が鬱陶しいぐらいに生えている。

ここに来たのは学校生活を送って2年目にして3回しかない。

「祠はどこにあるんだっけ?」

「あそこ」

他の木と比べてひときわ大きいところを指した。

「あんなところにあるんだ。はじめて知った」

「うん。私もこの話?噂?を聞くまで知らなかった」

「へぇー。そうなんだ」

意外だな。こういうところは集まりやすいと勝手に想像していたから前々から調査をしているんだと思ってた。

「なんか空気を重くなってきたね」

「確かに」

祠に近づけば近づくほど、景色に黒いもやがかかり始めた。

「心音ちゃん!」

ふと、心音ちゃんを見ると顔が青くなっていた。

「大丈夫?」

「な、にが?私は大丈夫だよ」

そう言っているが、全然大丈夫じゃない。

言葉は途切れ途切れだし、今にも倒れそうだ。

「なわけないでしょ、もう」

手を握り無理やり旧体育館の方に連れていく。

階段に座らせ手を離す。

「佐倉ちゃん、わたしいけるよー」 

頭を前後に振りながら言うが、絶対無理だ。

祠から離れたおかげか顔色は良くなっているが、また行けば今よりもまた悪くなってしまうかもしれない。

「はいはい、心音ちゃん。私が行ってきて確認してくるからここで安静しててね」

たぶん、普通の人ならここで逃げ出すが私は違う。ここまで来ると原因を知りたいんだ。

黒いもやなんか気にせず、ずんずんと進み祠の目の前まで行った。

「えっ…?なんでこんなに空気がいいの?さっきまであんなに重かったのに」

眼前に、晴々しい世界が広がった。

「もしかしてこの祠が関係しているの?」

本来なら触ったらダメな気がするが、

「ちょとならいいでしょ」

気になった私はそっと手を置いてみた。


にゃーん!


声が聞こえた。

つむじ風が起こった。

一瞬、黒い塊が見えた。

今の状況が全く分からない。

分からないことが多すぎて呆気にとられた。


「えっ?猫?」

はっとしたころには私の足元に黒白の斑がいた。

「…かわいい」

怖いという言葉よりも先にこれが出てしまった。

しゃがんで撫でようとするが、猫はするっと避け私の横を通りすぎていく。

「えっ…?」

あっ…逃げられた。


―これでこの事に関して満足してくれるといいな。

―面倒なことや騒ぎになるようなことはもうしたくないから。

乱れた髪を整えなおし、ゆっくり立ち上がった。すっかり見通しの良くなった道を戻った。

「さーて、心音ちゃんは元気になったかな」

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