第4話

「ねえ、有栖とのデートはどうだった?」


 シャワーを終えた紅と行為を終えてすぐ。

 彼女が俺にそう聞いてきた。


「別に。結局田中先輩も来なかったし、無駄足だったよ」

「ふうん。ホテルとか行かなかったんだ」

「いくわけないだろ。あいつ、好きでもない男とは付き合うなんて考えられないって言うような真面目なやつだし」

「でも、もし有栖に誘われてたら行ってた?」


 こっちを見ながら、しかし表情は崩すことなくむしろ呆れたように彼女が聞く。


「さあな。でも、多分行ってない」

「有栖みたいな子はタイプじゃないんだ」

「タイプとかわかんねえよ。でも、やることやってハイさよならってわけにはいかないだろ。そういうの、面倒だし」


 そんな話を、毎日そうしているセフレにするのもどうかと思いながらもつい、してしまった。

 しかし彼女はやはり表情を変えることなく「じゃあ、やっぱりセフレがちょうどいいんだあんたには」と。


「……まあ、そうかもな。付き合うとか、そういうのって疲れるから。お前は違うのか?」

「彼氏いたことないからわかんないけど。でも、私も同じかも」

「あ、そ。ていうか、遅くなったけどどうする? さすがにこの辺は暗いし、送っていくけど」

「なにそれ、セフレのくせに」


 そう言いながら、今日の紅はベッドから出ようとしない。


「ねえ、泊まっていっていい?」

「は? 俺は別にいいけど、家は大丈夫なのか?」

「友達んとこに泊まるって言えば別に。眠くなってきたし、あんたに送ってもらうのも癪だから」

「なんだよそれ」

「じゃあ、シャワー借りるから。寝巻き、あんたのジャージでも貸して」


 紅は側にあったタオルケットで体を隠しながら、さっさと立ち上がり。

 

「こういうのも、疲れる?」と。


 聞いた後、俺の返事を待つこともなく部屋を出て風呂場へ向かっていった。



「……ん」


 目が覚めると、部屋はすっかり明るかった。

 どうやら、紅が戻ってくる前に眠ってしまっていたようだ。


 あいつは……もういない、か。

 まあ、そうだよな。

 恋人でもないやつに、寝顔なんか見せたくないだろうし。


「ふあ……そういえば今日は休みだったな」


 最近は一週間があっという間だ。

 毎日学校行って、紅が家にきて、時々バイトして。

 平日はそんな感じで気がつけば終わっている。


 でも、週末は逆に長く感じてしまう。


 昼、バイトに行ってる間はいいけど帰ってから夜が長い。

 俺はテレビもろくに見ないし本もあまり読まない。

 それに、紅も来ない。


 あいつといる時は、時間があっという間に過ぎるんだがな。

 まあ、ほとんどヤッてるだけたけど。


「さて、起きるか」


 乱れた布団を整えて、服を着て洗面所へ向かう。


 すると、綺麗に折り畳まれた俺の服が一着、脱衣所にあった。


「……こういうとこ、マメなんだな」


 歯ブラシを咥えて、昨日紅に貸していたその服をじっと見つめながら。


 ぼんやりと、昨日の紅の顔を思い浮かべていた。



「いらっしゃいませー」


 家の近所にあるバイト先のファミレスは土日の昼間だけ別の店になったかのように忙しい。

 何も考える間もなく、ひたすら接客と配膳、それに洗い物を繰り返して時間が過ぎる。


「青山君、三番テーブル下げてきたら上がっていいよー」

「はい、ありがとうございます」


 店長の呼びかけに応じてテーブルを片付けてからキッチンの奥へ。


 ふと時計を見たら夕方の四時。

 ほんと、時間が経つのがあっという間だ。


「お疲れ様ー、青山君」

「お疲れ様。麻生さんもあがりですか?」

「そ。この後は暇だからねうちって」

「まあ、そうですね」


 裏の楽屋で声をかけてきたのは同じバイトの麻生真理子さん。

 同じ学校の一つ先輩だが、ここでしか話したことはない。

 艶のある黒髪をポニーテイルにした、キリッとした目が特徴的な美人。

 バイトの頻度は俺より少ないが、一年先輩とあって仕事では頼りにさせてもらっている。


「青山君ってさ、休みの日いっつもシフト入れてるけど彼女とかいないの?」

「いませんね。麻生さんこそ、最近バイト減りましたけど彼氏でもできました?」

「あー、いやー、それがねえ」


 歯切れの悪い返事が返ってきた。

 まあ、男がらみで何かあるのだろうと、察したが敢えて話を遮った。


「まあ、色々ありますよね。お疲れ様でした」

「ち、ちょっとちょっと。聞いてくれないの?」

「何をです?」

「はあ、ほんとドライだよねえ青山君って。よかったらさ、この後お茶しない?」

  

 よかったら、なんて聞きながら出口側に立つ彼女はどうしても俺に話を聞いてほしい様子だった。

 というよりこの場合、誰でもいいから話を聞いてほしいという感じだろう。

 

「まあ、奢りならいいですけど」

「あはは、奢る奢る。じゃあ、少し先のカフェ行こっか」

「ここでもよくないですか?」

「えー、せっかく稼いだお金をまた店に取られるのってなんか癪じゃない?」

「まあ、それもそうですね」

「だよね。じゃあ、着替えてくるから先に出てて」


 麻生さんは奥の更衣室に向かっていった。


 普段ならこんな誘い、絶対受けたりしないんだが。

 夕方の時間の潰し方に困っていたところだったし、たまにはいいかなと。

 そんなことをいつから思うようになったのだろうか。


 ふと、自分らしくない行動を自覚しながら店を出て、麻生さんが来るのを待った。




 


 



 

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