第10話 あなたの痛みはどこから? 私はぁぁぁぁ!?

   ルミナス学園・校長視点


 慣れた椅子に腰をおろし、深いため息をつく。

 

 今日、新入生が入学してきた。それ自体は喜ばしいことなのだが……。

 毎年悩ませられることがある。

 問題児達だ。毎年一定数いるんだよ。

 「お前より格上だの」「気に食わないだの」と言って同級生や上級生に喧嘩吹っ掛けたり、問題を起こすお馬鹿達が。

 おかげで後始末やらで疲れがまったく取れやしない。


 今年に限っては聖女、王族、上級貴族までもが入学している。

 もしも、この者達に何かあれば私の首が飛ぶ。

 さすがにどんな馬鹿でも聖女、王族、上級貴族に喧嘩を売る奴はいないだろうが、一応は気に留めておいた方がいいだろう。

 もしかしたら、決闘を挑む愚か者がいるかもしれないからな。


 落ち着くためにカモミールティーをひと口。

 

 ハァー。今のような落ち着いた時間が永遠に続いて欲しいものだよ。

 面倒なことにならないでくれよ。

 頼むから……。

 

 部屋にノック音が響く。


 「入りなさい」


 部屋に入って来たのはアミド先生だった。


 ついにきたか。今年はどんな馬鹿がいることか……。


 「問題を起こしそうな生徒をピックアップしてきたわよ」


 「ああ、ありがとう」


 資料を受けとる。

 その数三枚。

 ということは問題を起こしそうな阿呆は、今のところ三人のみ。


 ああ、何てことだ! 毎年、二十人はいる問題児が僅か三人!

 明日は隕石でも降ってくるのではないか? フハハハハ!


 「校長……ニヤニヤして気持ち悪いわ。ダンディーな顔が台無しよ?」


 「おっと失礼。つい嬉しくてね」


 ポーカーフェイス。ポーカーフェイスと。


 さて、資料を確認しよう。


 

 一人目はヘルガ・ヘルバーレイ。


 やっぱりこの子か。プライドが高くて人を見下す性格は相変わらずか。

 しかし。腐っても伯爵家の人間。

 さすがに格上には喧嘩を吹っ掛けたりしないだろう。

 アイツに比べれば可愛いものだ。


 二人目はキルク・アイビー。


 この子って……今年入学だったの?

 最悪だー! この 血液性愛者ヘマトフィリアが入るだって!? 冗談じゃない!

 間違えなく聖女に絡むぞ。この子は!

 さすがにこの変態は、私自ら釘を刺しておこう。

 はぁ~。次だ。次。



 さて三人目は、星河雅人。

 

 珍しいな抽選枠の子か。普通は、才能が無いから絡まれるパターンが多いのだが……

 うん? ヘルガくんに絡まれた時に魔力を纏って威圧したって!?


 「アミド先生。この星河雅人くんについてなのだが……」

 

 アミド先生は苦笑いしながら伝えてくれる


 「固有スキルは魔装重圧らしいです。ルルーニャが言ってました」


 ルルーニャ……。たしか猫獣人の受付嬢だったかな。

 

 


 魔装の名を冠するものは、魔法、スキル、どちらも熟練の魔法使いしか使えないはず。


 それに……。

 

 「固有スキルで魔装なんて聞いたことないぞ」


 「私もです。固有スキルは一人一つ、生まれた時のみ覚えられるスキル……。生まれながらの強者ということかしら」


 生まれながらの強者か……何気ない一般人にも、こう言う子がいるから抽選枠は止められないのだ。

 面白い。


 「しかし、資料を見る限り問題児には思えないのだが? ヘルガくんに絡まれたから威圧しただけだろ?」


 私の疑問を聞いたアミド先生は「やばっ。書き足すの忘れてた」と言い説明しだす。


 「ルルーニャによれば身分証を作る時にいきなり涙を流したり、呼吸が荒くなったりしたとか。情緒不安定みたいよ?」


 っな! なんだって!? 魔装を扱える者が情緒不安定ってとんでもないじゃないか!!

 それじゃ、あれか? 狂乱して聖女や王族達を威圧や攻撃する可能性もあるってことだろ!

 

 どういうことだ! せっかく今年は問題児が少ないと思ったのに! 少ないぶん質が上がったということか!? 去年以上に最悪な状態じゃないか!


 「っゔ。胃が……」


 「校長! 胃薬よ」


 近くの棚から胃薬を取り出して私に渡してくる。

 「いつも、すまないねぇー」


 「いえいえ。心中お察しするわ」


 胃薬とカモミールティーをいっきに飲み干す。

 

 「何か対策しとかねば……」


 「まだ、実害が出てないし大丈夫じゃない?」

 

 「出てからでは遅いのだよ! 出てからでは私の首が……物理的に飛ぶ!」


 大変ね~。私は校長みたいになりたくないわ。っと軽口をたたいてくる。

 

 「それで、渡すものは渡したからもう行くわね」

 

 「ああ、ありが」


 「いきなりで申し訳ありませんが、失礼します!」


 勢いよく開かれた扉には息を切らした職員が焦った表情で入ってきた。


 「大丈夫かね!? いったいなにがあったんだ?」


 「か、カイナ・ジェリーが職員室で転んで、ブート・ジョロキアの粉末をばらまいてしまい、地獄絵図に!?」

 

 「ゴォハ!!」

 吐血した。


 「「校長ぉぉ!!」」


 「だ、大丈夫だ。今すぐ職員室へ行くから君達はここで待ってなさい」

 また、あの子はぁぁぁぁ!!

 私は痛む胸を押さえながら全力で駆けた。


 

 

 2日後。

 

 校長室で優雅にコーヒーを楽しむ。


 「う~ん。言い香りだ。癒される」


 この前は大変だったなぁ。

 あの事件が収拾したあとぶっ倒れ医療施設へ運ばれた。

 診断結果は、疲労とストレスで胃に穴が空いていたらしく、回復魔法で塞げた。

 

 あの地獄絵図……悲惨だったね~。

 あの光景を思い出すだけで……発狂しそうになるよ。


 コーヒーを一口すする。

 

 一息つくとノック音が聞こえてくる。


 「入って構わないよ」


 「失礼するわ」


 部屋へ入って来たのはアミド先生だった。


 「おや、アミド先生なにか用かい?」


 言いにくそうな、顔で一言。


 「星河雅人とロイド・カラットが賭けアリで勝負したみたいよ。……結果は星河雅人の勝利。

 ロイドは四億ギメルをチームで支払うことになったわ。しかも、ロイドのチームには聖女ソフィアもいるの。つまり……」


 「のあァァァァーー!!」

 

 「校長ぉぉ! お気を確かに!」


 チームでの支払いとはいえ、聖女に四億ギメルの借金……。

 星河雅人くん。君には恐れという感情は無いのか? 


 「ハァハァ。取り乱してすまないねぇ。それでソルテミア聖国のかた達はなにか言ってこなかったかい?」


 「いいや。まったくないわよ」


 「そうか……それなら大丈夫か」


 「あー。それともう一つあるのですが……」


 まだあるのか!? 

 勘弁してくれ。

 さすがに聖女のことよりも危険な内容じゃないだろうが……怖い。聞きたくない。お願いだやめてくれぇぇ!


 「カルミア・アルテニアスが初心者ダンジョンの四階層を金色の炎で……すべて焼き払いました」


 「……そ、それは階層すべてということかね?」


 「そうよ」


 「ブフォォ!」

 どうやら、私の胃は限界のようだ……。 

 霧のように吐血した。


 「校長!? 幸い死人はいないわよ!」


 ダンジョンでの死亡は責任を取らないと伝えているが、人為的な事故で多くの死者が出ていたらかなりヤバかった。


 「アミド先生。カルミアは誰とチームを?」


 「星河雅人、セリア・アトシナス、カルミア・アルテニアス、シュロ・キルピナスの四名よ」


 何! シュロくんもいるのか!? これはまだ、希望が持てるかもしれない!

 シュロ・キルピナスといえば、愛国心の塊のような子だ。

 国のため盗賊を降伏させたり。

 極秘の内容だが……王国の情報を盗み、逃亡したスパイすら始末したとか。

 彼女がいるならマサトくんやカルミアくんも下手なことはそうそう出来ないはず。

 今回はシュロくんが同行していなかった可能性もある。

 シュロくんならきっと彼らの手綱を握ってくれるはず!

 

 「アミド先生」


 「ええ。シュロさんがいますのでこれ以上酷いことにはならないかと」


 「そうなることを祈っているよ……シュロくん頼んだよ。私の胃と首のために!!」




          ☆


 

 「私、聖女倒したい」


 飲食スペースで物騒なことを言ってくるシュロ。

 

 「いきなりどうした?」


 「名声……欲しい。チラ

 でも、今の私じゃ倒せないからマサトも遠距離からトラウマを思い出させる魔法をバレないように」


 「やらないよ!? あれは二メートル以内。もしくは触れていないと無理だから。絶対にやらないから!」


 「ケチ」

 

 とんでもない子だ。

 聖女様に四億背負わせた挙げ句にズルして倒そうだなんて……。

 まぁ、四億背負わせたのは俺だから人のこと言えないんだけどさぁ。


 それにしても……。


 「ぐすん。ゔぅえっぐ」


 うつ伏せになって鼻水をすするカルミア。

 それを見ながらケーキを頬張るセリアとシュロに聞く。


 「なぁ、なんでカルミアは泣いてるんだ?」


 「昨日、森林を焼き払ったから変な二つ名を付けられたみたいですよ」


 「学園中に広がってる」


 俺の時もそうたったが、噂が広がるのが早いな。

 やっぱりみんな、こう言う噂が好きなんだな。

 本人からしたらたまったものじゃないが……。


 「それで、どんな二つ名がついたんだ?」


 俺の問いに二人はカルミアの方を見る。

 うつ伏せで泣きじゃくる彼女の前に身分証が置いてあり、そこには……。


 「金色の放火魔……。犯罪者かな?」


 まあ、幸い巻き込まれた人がいないから良かったものの。いたら普通に犯罪だもんな……。

 こればっかりは言い訳できないし。


 「うわーーん!」


 「ちょっ! マサトさん! 思ってても口に出しちゃダメじゃないですか。本人、自覚あって気にしてるんですから」


 「そ、そうか。悪かったよ。ほらハンカチ。これで涙拭きなよ。カルミア」


 「ぐすん」


 カルミアはハンカチを受けとると……。


 「ズルズル! ズピィィ!」


 っあ、コイツ! 涙拭けって言ったのに鼻かみやがったぞ。


 「ありがとうですの。はい、お返ししますわ」


 「いや、そのハンカチあげる」


 今日は初心者ダンジョンの五層……ボスに挑むのに大丈夫かね? 


 心配になってきたよ……。

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