第5話 チーム結成と問題児
カルミアが一人の少女を連れて戻ってきた。
腰まで伸ばした若葉色の髪に同色の瞳。凛とした雰囲気の少女。
「こちら、わたくしの親友のシュロですわ!」
「シュロ・キルピナス……シュロでいい。よろしく」
「俺は星河雅人。マサトでいいよ」
「私は、セリア・アトシナス。セリアと呼んで下さい」
俺とセリアの言葉にシュロは黙って頷く。
「お二人ともシュロは人前だと、わざと無表情で口数を少なくしていますが、あまり気にしないでくださいまし」
「え? 何でそんなことしてるの?」
俺の問いにシュロが言う。
「その方がかっこいいから。それに、みんなが尊敬してくれるから……ちょっと愉悦に浸れて気持ちいいの。みんなには内緒」
「そ、そうか」
どうやらシュロは変わり者のようだ。セリアも少し困惑している。
「一通り自己紹介しましたが、もっとお互いのことを知るために最終的な目標を発表し合いませんこと?」
「目標? 目標と言っても俺、皆に言えるほど立派な目標ないんだけどな」
「いいじゃないですか。私もそこまで立派な目標ないですよ?」
「私も立派な目標ない。でも皆の目標知りたい」
どうやら、セリアとシュロものり気のようだ。
「決まりですわね! では、言い出しっぺのわたくしから言いますね。わたくしの目標は王宮のみんなを見返すことですわ!」
「見返すとは?」
俺の問いにカルミアは少し悲しそうに答える。
「わたくし、希少な魔法で金色の炎を使えるのですが……魔法のコントロールがとても苦手ですの。そのせいで周りから「希少魔法の持ち腐れ」とか「可哀想な希少魔法」なんて陰で言われていますの……。わたくしは強くなってこの魔法を使いこなし、周りの人達を見返してやりますわ!」
「いや王族相手に陰口とか……不敬罪だろ。てか、レベル上げればコントロールくらい良くなるんじゃないのか?」
「いいえ、魔法のコントロールだけはレベルを上げてもどうにもならないのですわ。才能の世界。才能を生かせない私は凡人以下ですわ……とにかく、わたくしは強くなって魔法のコントロールも良くしてみなさんを見返してやりますの! それがわたくしの目標ですわ!」
カルミアの目は燃えていた。相当な覚悟を持っているようだ。
それに感銘を受けたのかセリアとシュロがカルミアの手を握る。
「カルミアさん! 私も全力で協力しますから絶対に皆さんを見返してやりましょうね!」
「私も親友として手伝う」
「セリア、シュロ……ありがとう。あなた達とチームを組めてわたくし嬉しいですわ!」
手を握り合う三人。出会ってすぐに友情が芽生えてなにより。
さて次の人は……
「次は私」
シュロは続けて言う
「最初にも言ったけどみんなから、今以上に尊敬されること。それが目標」
なるほど、さっきも尊敬されるの気持ちいいとか言ってたもんな。その気持ち分かるんだけど、尊敬されるのもほどほどにして貰わないと周りから無茶なお願いとかされそうだな。まぁ、俺を巻き込まなければ別にいいのだが……
「うん? 今以上にと言うことは、すでに結構尊敬されてるってことか?」
「ええ、確か一年前に凶悪な盗賊団や指名手配犯を数十分で降伏させたとかで多くの人から畏怖と尊敬されていますわ」
「マジか。それじゃあシュロってめちゃくちゃ強く」
「弱いですわ!」
……即答じゃん。
「それじゃどうやって降伏させたんだ?」
シュロが一言。
「嘘とはったり」
「な、なるほど。でも今日から同じパーティーの仲間なんだから、はったりとかで面倒ごとを持ち込まないようにしてくれよ?」
「善処する」
目をそらしやがった。絶対に善処しないやつだ……。
「え~と、次は私が言いますね。私の目標は絵本の聖女様みたいに沢山の人達を回復魔法で治療し、みんなを笑顔にすることです! シュロさん程ではないですが私も少しは、みんなに尊敬されたいな~なんて」
「あら、素敵な目標ですわ!」
カルミアの発言に俺とシュロが同意する。
「えへへ~そうですかね? でも、なんかちょっと恥ずかしくなってきました! ということで、次はマサトさんの番です!」
三人が俺を見る。
この学園に入学すると決まった時から俺の目標は変わらない。
いや、今は少し変わった。俺一人ではなく……
「俺の目標は、俺達四人で誰一人欠けることなく生きて卒業すること以上!」
きょとんとする三人。数秒して。
「フフフ、嬉しいこと言ってくれますわね」
「そうですね。でも私達なら……」
「できる」
四人で頷き合って。俺が一言。
「ということで目標達成のため頑張ろう!」
「「「おー!!」」」
四人で結束したところで今日は解散。俺とセリアは武器をチケットと交換するため武器屋へ行くことにした。
☆
受付嬢に貰った武器交換チケットの裏側に書いてあるお店は、全部で四店。そのうち三店は人混みがすごいので後回しにして、最後の一店に来たのだが……
「人……全然いないな」
「いないですねー」
店には、カイナちゃんのすっごいお店!! と書かれた看板が一つ。チケットの裏に書かれてた名前と場所が一致するので此処のはずなのだが……
ここ本当に武器屋か?
窓から店内を覗くと三角フラスコっぽいのに様々な色の液体が詰まっているものが棚に並んでたり、狼の剥製? や電子レンジみたいな箱があったりまるで骨董品店だ。
ドアを開け店内に入るとベルの音が響く。
奥から駆けてきたのは、金髪サイドテールに緑の瞳をした、元気そうなエルフの少女だった。
彼女は俺の手に持っているチケットを見て。
「あら、あなたたち新入生ね! そのチケットを持ってきたということは、武器を貰いに来たのでしょ? さぁ二人ともこっち来て!」
エルフの少女に言われカウンターの席に座らされた。
「それでさっそくだけど二人はどんな武器がいいのかな?」
「俺は軽くて頑丈な剣なら何でもいいかな」
「私もあまりこだわりとか無いので杖ならなんでもいいです」
俺達の答えに彼女は少し呆れながら言う。
「ちょっと二人とも適当すぎない? すくなくとも命を預ける物なんだから、もっと真剣に選ばないと。まったく……仕方ないからこのカイナお姉さんが選んであげる。ちょっと待ってなさい」
カイナさんは店の奥へ行く。
しばらくしてカイナさんが戻ってくると剣と杖をカウンターテーブルへ置く。
剣は鮮やかな桜色で五十センチほどの波打つ刀身。これはたしか……
「フランベルジュ?」
「正解! でもこれはただのフランベルジュじゃないよ。刀身は魔法鉱石を使っているから折れにくく頑丈。切れ味も抜群なんだから!」
「へぇーそれじゃあこれにしようかな」
カイナさんはフランベルジュを鞘に納めて俺へ渡す。
「大切につかってね。それじゃ次にお嬢ちゃんにはこれね」
百五十センチくらいで金属製の杖を渡す。セリアの背よりも少し大きい。杖を手に持つと。
「あれ? 見た目によらず軽いですね」
「そうでしょ! その杖も魔法鉱石をつかっていて軽くて丈夫なのよ。ちなみにその杖には物理攻撃力を上げる効果があるから上手く使ってね♪」
「っえ? 何で物理攻撃力なんですか?」
セリアの問いに笑顔で
「おもしろそうだから! ただそれだけよ!」
「そ、そうですか。まぁデザインも良いですし、この杖にしますね」
「さすが、二人とも見る目あるわね! ちなみにその二つの武器はそのチケットで交換できる武器よりも遥かに良いものだから私に感謝するのよ。っあ、チケット貰うね~」
カイナさんにチケットを渡す。嬉しそうに受け取りながらカイナさんは言う。
「それとね。その良い武器あげるからかわりに私のお願いをきいてくれないかしら?」
「内容によりますね」
「な~に簡単なことよ? これからも定期的に私のお店で買い物してくれるだけでいいの。ね? 簡単でしょ?」
セリアと顔を合わせる。俺と同じ事を思っていたみたいでセリアが質問する。
「それは構わないのですが……あの、少し気になっていることがありまして。失礼ですが、このお店はなぜお客さんがいないのですか?」
俺もずっと思っていたことだ。今日は入学初日。俺達以外にも多くの新入生が武器とチケットを交換している。この店以外の三店舗は混雑する程なのにこの店だけ避けられている。その理由が分からない。
「あら? 店名で分からないかしら? 私の名前はカイナ・ジェリーよ。流石に知ってるわよね?」
セリアと目が合うが、俺だけではなくセリアも知らないみたいだ。
そんな俺達を見てカイナさんが呆れながら言う。
「これでもこの国では超有名な魔法使いなんだけどな~。世間知らずにも程があるんじゃない?
まぁいいわ。店に客が来ない理由教えてあげる。それは単純に私が問題児だからよ。
しょっちゅう校長から説教されてるから周りからはヤバイ奴認定されて避けられているのよね~。ま、ヤバイことしている自覚あるんだけどね♪」
自覚あるのかよ。周りが避けるほどって余程のことをしたのだろうな……
「そういえば、あなた達の名前教えて貰ってもいいかしら?」
「俺はマサトです」
「私はセリアです」
「マサトくんとセリアちゃんね。あなた達は今日から常連だからちゃんと買い物しにくるのよ? じゃないと私が金欠で野垂れ死ぬからね!」
いや、そんなことを元気に言われても……
「買い物するのはいいですけど俺達まだ新入生だからあまり沢山は買えませんよ?」
「わかってるわ。余裕がある時で良いからよろしくね」
こうして入学初日を終えた。
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