第7話──遺書は、記録されている

火曜会の集まりの後、イサクラは一人、地下道を抜けた先の細い路地に立ち尽くしていた。

肩に残るコウのあの目線が、まだ焼きついて離れない。


彼は問いかけたのだ。

“お前は本当に、無関係だったのか?”と。


イサクラは首を振る。あれはただの挑発だ。

だが、心の奥のどこかで、否定しきれないもう一人の自分がいた。



翌朝、玄関のインターフォンが鳴った。

モニターには、見知らぬ若者。

不自然に丁寧な口調で、封筒を差し出した。


「火曜会主催者代理の“記録管理部”です。

前回の朗読の“再検証”を目的とした素材確認のため、USBをお届けしました。」


封筒の中には、黒いUSBメモリと一枚の紙片。


「すべての朗読は記録されている。

嘘を混ぜる者は、自らの嘘によって裁かれる。」


──火曜会・記録管理部


誰が何の目的で“記録”していたのか。

なぜ今それをイサクラに渡してくるのか。

疑問は尽きないが、イサクラはPCにUSBを差し込む。


するとそこには、前回の朗読会の映像が──参加者すべての姿、声、表情を完璧に捉えたフルHDで残されていた。

しかも驚いたことに、動画ファイルのタイトルはこうだった。


【火曜会 朗読No.0445|朗読者:高柳幸太(コウ)|推薦者:イサクラ】


「……推薦?」


推薦などした覚えはない。だが、ファイルにはそう記録されている。

そして次の瞬間、心臓が凍りつくような音が流れた。


「次の朗読者は──“君の息子”だ。」


画面の中の“主催者の声”がそう言った。

その言葉にコウは「え?」と目を見開き、次の瞬間に例の遺書を読み始めていたのだ。


イサクラは震えた。

これは“編集された記録”か? それとも“事実”か?


USBの中には、もう一つだけ動画ファイルがあった。

再生してみると、それは10年前の小学校の校舎だった。


今は廃墟となった教室の中に、誰かがカメラを設置していた。

そして、ある夜──

誰かが、黒板にチョークで“あなたは気づいてた”と書く映像が映し出された。


“火曜会”の存在は、10年前から始まっていたのか?

あの事件もまた、演出の一部だったのか?


映像の最後には、次の火曜会までのカウントダウンが表示されていた。


ー次の朗読まで、残り 03日 14時間 52分ー


イサクラは、思わず口元を抑えた。

あの“笑っていた火”は、まだ消えていない。

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