3-5
俺は隠れオタクです。
色々頑張って、なんとかリア充グループに所属しています。
しかし、そんな俺が男四人、女の子四人で遊園地に来ているというのは、いくらなんでも贅沢というか……猫に小判、馬の耳に念仏、豚に真珠なんじゃないでしょうか。
周囲を見渡すと、遼、広大、新一というイケメン、鷺ノ宮さん、相内さん、山野辺さん……そして恋ヶ窪さんという美少女たち。
これはもうまさしく「それなんてエロゲ?」状態ですね。
俺もしかして明日死にます? おれ……消えるのか?
なんて軽く現実逃避をしていても、世界は俺を待ってくれません。
「うっし! とりあえず写真撮ろうぜー」
遊園地の入場ゲートをくぐるなり、遼が全員に声をかけます。
おーこれがリア充の行動パターンか。すげー。
「ちょ待って、前髪チェックする!」
「わ、私も!」
相内さんと山野辺さんは鏡を取り出して、必死に前髪をイジっていました。
異性の俺からしたら、そんなことしても変わらないし、元から二人とも可愛いからいいじゃんと思ってしまいます。
ふと、鷺ノ宮さんと恋ヶ窪さんの方を見ると、特に何もしてませんでした。
『…………っ!?』
しかし、俺と目が合うと驚いたような顔をして、慌てて鏡を取り出しました。
これはどういう意図なんでしょうか……? よく分かりません。
「いやーそれにしても、生徒会長の恋ヶ窪さん可愛いよなー」
「おい、彼女持ち。相内にチクるぞ」
「それは勘弁してくれ! でもお前も思うだろー、広大?」
「まぁな。というか、誘ったのが新一じゃなくて俊介というのが意外だ」
女子たちが髪を直してる間、男たちで集まって話をしていました。
しかし、どうしても避けられない話題が生じます。
木曜日や金曜日も問い詰められましたが、曖昧な返事しかできていなかった話です。
「いやー、そのなんていうか成り行きで!」
そして今も、曖昧な返事をすることしかできません。
「江古田。本当に会長と接点ないのか? この間の昼休みの件を会長に確認したが、曖昧な返事でお茶を濁すようだった。はっきり言って……怪しいぞ」
相変わらず、新一の指摘は厳しいです。
昼休みアニソン事件もあって、最近はかなりピリピリしています。
しかし、恋ヶ窪さんが俺とどんな関係なのか、それは俺にも分かりません。
この遊園地に誘ったの、たしかに俺です。
けど、あまり深く関わりのない人間の誘いに、こうも簡単に応じるのでしょうか。
新一がいることを知っていたのなら、それもまだ分かります。しかし、恋ヶ窪さんはそのことを知らないみたいでした。
新一も知らない何かしらの意図が、恋ヶ窪さんにはあるのかもしれません。
「いよいよ、俊介と恋ヶ窪さんのただならぬ関係疑惑が現実味を帯びてくるなー」
「本当に違うんだって!」
いくら否定しても、三人からの疑惑を逃れることは出来ませんでした。
現実を逃避するように周囲を見渡すと、絶対に見たくなった存在を捕捉します。
ゴシックスタイルのオタク解放戦線三人組です。
目が合うと手を振ってきます。
「(めちゃくちゃ目立ってるやんけ!)」
あんな格好していても、三人とも緑生高校の生徒です。見つかったら誰かしらにバレる可能性が十分にあります。
「どうした、江古田。どこを見ている」
「ん、いや-日曜だから人が多いなって」
危ない危ない。不審に思った新一がすぐに指摘してきます。
「なるほどな……あそこに真っ黒な格好している奴がいるな」
「ええー、そんな人ーいるーかなー?」
さっそくバレました。焦りすぎてまともに声が出せません。
「まぁ、興味はないが。僕はああいう手合いが嫌いだ」
「……どうして嫌いなの?」
こんなことを聞いたら勘繰られるんじゃないかとも思いました。
けど純粋に気になってしまったのです。オタク嫌いな人がどういう気持ちなのか。
「一つは我が校では取締りの対象ということ。もう一つは兄が……」
「お兄さん?」
「いやなんでもない」
新一はそっぽを向いてしまいました。
何か触れられたくない事情があるのかもしれません。
当たり前のことですが、俺も新一も別の人間です。別の世界を持っています。
そこには踏み入ってはいけない領域があります。
「男子お待たせー、写真撮ろ!」
頭によぎった悲しい想像を振り払って、相内さん達の方に向かいます。
「盛れるアプリで撮りたいから、私のスマホでー」
結構な時間が経っていましたが、女子達の見た目にこれといって大きな変化はありませんでした。鷺ノ宮さんと恋ヶ窪さんの方にも目をやると、なぜだか二人とも顔を赤くして俯いてしまいます。んーやはり女心はよく分かりません。
「誰かに撮ってもらうかー」
遼はキョロキョロと周囲を伺います。
こ、これがリア充の力か!
俺はそもそも写真を撮らないし、通行人の時間を奪ってまで、写真を撮ることをお願いすることなんて出来ません。
きっとこれが、真のリア充が持つコミュ力なんでしょうね。
「よければお撮りしましょうか」
そんな遼の様子を見て、親切な人が声をかけてくれました。
しかし、この声どっかで聞いたことあるような……。
「(ひ、樋口先輩!?)」
え、マジでこの人アホでしょ(一応先輩ということを忘れました)。
鷺ノ宮さんも驚いていて、開いた口が塞がらないと言った感じです。
遼たちもゴシックスタイルの男に驚いていました。
ですが、さすがコミュ力オバケです。遼は「あ、すみません。じゃあ、三枚くらいお願いしてもいいですか。というかその格好めっちゃカッコイイですね」なんて樋口先輩と普通に会話をしていました。
高校の先輩だとは、バレていないみたいなので一安心です。
「よし、じゃあみんな位置につけー。もちろん俊介と鷺ノ宮さんは隣でー」
「わ、私も江古田くんの隣で!」
恋ヶ窪さんは、なぜか俺の隣を立候補します。
結果として、鷺ノ宮さんと恋ヶ窪さんという美少女に挟まれることになりました。
後ろの遼たちは、「これは泥沼だなー」なんて不吉なことを呟いています。
それに加え、何故か恋ヶ窪さんは俺の方にピタリとくっついてきました。女の人特有の柔らかさが、かすかに腕に伝わってきて……やばいです。
それが気に入らないのか、鷺ノ宮さんが明らかにイライラしています。
「わ、私は江古田くんの真後ろで!」
なんて両隣の二人に気を取られていると、山野辺さんが俺の肩に手を乗っけました。
そのせいで、中腰の俺に密着するような態勢になります。
なんか柔らかい何かが背中に当たっているような気がします。
ええ、きっと幻です。考えたら駄目です。
それを見た恋ヶ窪さんがますます密着してきて、鷺ノ宮さんもますます不機嫌になります。
なんですか、このラノベ主人公みたいな状況。しかし決定的に違うのは、この三人の女子が俺に好意を持っていないことです。
俺は鈍感主人公とは違います。常識的に考えて、あんなに好意を向けられて気がつかないわけ無いじゃないです。もしも俺がラノベ主人公なら、女の子の好意を見逃すことなんて絶対にありません。
————なんて、どうでもいい事を考えても状況は変わりません。誰でもいいので、この状況をなんとかしてください。助けてください。
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