第1話 交通事故

「ふふっ、あはははははっ 勇者よ。

貴様の力はそんなものか。 昔、敗北し、忌々しい封印をかけてくれた世代とは大違いではないか。 」

「くっ 魔神がこんなに強いだなんて聞いてねぇぞ。 こんなの詐欺だろ詐欺。」

「すいません。 勇者様。 もう私の魔力が残り僅かでございますわ。」

「僕ももう限界、かも。」

「うちも限界。 こんな強いだなんて聞いてない。」

「ちっ こんなことなら魔神討伐なんてくるんじゃなかったな。」

「話し合いは終わりか? ならせっかくだから儂の本気の魔法を打ってやろう。 貴様らなぞ塵も残らん。」

魔王が力を溜めている。 その溜まる力によって

城もボロボロになっていく。

瞬間、強く発光したエネルギーの塊が勇者へと放たれた。

「ははっ、 なんだよこれ こんなん無理だろ。」

勇者に魔法が直撃する寸前、その魔法は急に立ち消えた。

「っっ、なにやつ。」

その時、その場が赤い光りに包まれたと思うと

どこからかが飛んできた。

「っっ、この魔法はっ。」

「そうだ魔神よ。 それは貴様の命を縛る魔法

君は僕と倒れてもらう。 」

「貴様はっ なぜ生きている。」

「僕は君にすべてを奪われた。 だから貴様も私にすべてを奪われろっ!」

その言葉にはとんでもない憎悪が含まれていた。

「お前は、あの時、俺に指図しやがったやつっ

どうしてお前がここにっ。」

「君たちを復讐に使ってしまって済まない。

だが、僕はこの命を代償にこいつの力を封じた

今なら攻撃が通るはずだ。 勇者よ。 君の最大火力の技を撃ってくれ。 今なら通じるはずだ。」

「っっ、やめろっ 今攻撃されたら儂は…。」

「黙れ忌々しい魔神よ。 貴様だけは、貴様だけは絶対に許さないっ! 勇者よ、早く攻撃を。」

「なんだかよくわかんねぇがありがとうよ。

お前のことは忘れないぜ。」

勇者の持つ剣に力が集まり始める。

攻撃しますか?

▶する


「ホーリーインパクトォォォォ。」

その時あたりは光りに包まれた。

「「あああああああああ」」

魔神の体が真っ二つに割れ魔女も同じく体が引き裂けた。

こうして世界に平和が訪れた。 勇者ドルクの名前は後世に語り継がれるのだった。

                fin.



「あああ、ふざけるなぁ。」

俺は画面に表示されるエンドロールを見て嘆いていた。

「なんで、なんでクロエルートが存在しないどころか、生存ルートすら存在しないんだよぉぉぉ。」

なぜこんなにも俺があれているのか。

それは、俺が今やっていたゲー厶〈The Trail of Fate〉通称ティレオブ、その中で愛してやまないキャラ、魔女クロエのルートが存在しなかったからだ。

このゲームは勇者主人公を操作して聖女だの女騎士だの王女だの最強の冒険者だのとの恋愛を楽しめる恋愛シュミレーションRPGだ。

このゲームは恋愛ストーリーもキャラデザも凝っていてRPGというゲーム制度もちゃんと作り込まれていることが陳腐な恋愛シュミレーションゲームからレベルを押し上げている。

だがこのゲームはときの運がなかったのだろう

あまり話題になることはなかった。

攻略サイトを調べようとしても出てこないくらいだ。

だからこのゲームをやっているやつはマイナーの部類に入ってしまうのだろう。

だが、一度知ったやつはこのゲームの魅力に気づきやり込むだろう。

かく言う俺もその一人だ。

俺はティレオブのヘビーユーザーだ。

自分でも自覚を持っている。

仕事から帰ったらやるのはもちろん、うちはブラックのため有給なんてもの取れないが俺は今回インフルになった。 

つまり待機期間があるわけで時間はたくさんできた。 だが、そのできたおやすみも全部つぎ込むほどだ。

俺はその時間を使ってやり込みまくった。

ヒロイン1人1人のルートはもちろんクロエがいる場所を徹底的に調べ尽くした。

フラグを立てようとしてみたりそれが無理だと分かればクロエを生存させるために武器をエンドコンテンツにして能力も最大に強化した。

なのにっ、結局ルートは存在しなかった。

唾棄すべき事実である。

でも俺はまだ諦めていなかった。 絶対ルートを見つけてやる。 そう思い俺はまたリスタートを押そうとした。

「あれ、もう食べ物ないや。」

俺は大変な事実に気付いた。 

ティレオブをやりこむために買いだめた片手で食べられるもの――サンドイッチやおにぎり――が切れていた。

…そういえば今日のお昼に切れてそのまま何も食べてないな。

一回意識すると腹の主張というものは抑えられないものだ。

俺は腹を黙らせるため買い物に行くことに決めた。

…たまにはまともなもん食わないとな。

俺はそう思い立ち上がる。

ブラック企業で鍛え上げられているから自分は4徹くらいなら大丈夫だろうと思っていたのが間違いだったのだろう。

俺は普段遊べないぶん思っきり遊びフラフラでそして思考も鈍くなっていた。

そのせいで俺は気付くことができなかった。

明らかにおかしい速度で迫ってくる存在に…。

「はっ!」

気付いたときには目の前にトラックが迫っていた。

俺の何倍も大きいトラックはどんな怪物よりも恐ろしく感じた。

その時、時間が遅くなったように感じた。

フロントミラーにはおっさんが寝ている様子が見える。

ああこれが居眠り運転かと思いそして眼前に迫る脅威にもう助からないことを悟った。

不思議と死にたくないとかの考えが出てくることはなかった。

ただ一つ、もっとゲームがしたかったなと。

引き伸ばされた時間で俺はそんなことを思うのだった。





気付くとそこはベッドの上だった。

体に伝わるクッションの感覚が心地よい。

しかし、少しして違和感に気付いた。

―あれ、病院ってこんな豪華なベッドだっけ?

一つの違和感に気がつくと途端に違和感が湧き出してきた。

なぜか体が痛くないんだ。 そして身体が軽い。

そしてこの部屋もおかしい。 なぜこんな豪華な部屋にいる。

俺が困惑をしている時だった。

ノックオンが聞こえた。

「失礼します。 ロイド様、入ってもよろしいでしょうか。」

俺は誰が来たのかわからずさらに困惑するのだった。

そして少しして人が入ってきた。

その人はなぜかメイド服を着ていてそして何より美しい見た目をしていた。

「っっ、ロイド様 起きていらっしゃったのですね…申し訳ありません。 主人より遅く起きてしまったこのメイドに罰をお与えください。」

「へ? それはどういう。」

「ご主人様が前おっしゃっていたではありませんか。 メイドが俺より遅く起きるとは何事だ、

教育してやると。 そう言って鞭で打っていたではありませんか。」

「待って、取り敢えず俺は誰?」

「? 貴方様は私のご主人様でエーデルガルト公爵家当主 ロイド·エーデルガルト様でございます」

その言葉で俺の頭に電撃が走ったような気がした。

そうだ、俺は、ロイド·エーデルガルトだ。

ゲームででてきた悪役ロイド·エーデルガルトだ

つまり俺は、ティレオブの世界の悪役に転生してしまったらしい。













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