エールと揚げジャガ

鬼瓦勢十郎

罠で健康に?


 ここは、とある村の巨木の上に建つ風変わりな宿「銀竜亭ぎんりゅうてい」。

 昼は静かでも、夜になると冒険者たちが集い、グラスを鳴らし、どうでもいい話に花を咲かせる。


 この夜も、酒場の片隅には3人の若者の姿があった——


 登場人物

 ・ライナス(人間♂)

 罠や鍵開けを生業とする若者。今日も今日とて罠解除。


 ・サーレー(ホークマン♂)

 陽気な吟遊詩人。今日も空を飛びながら音を奏でる。


 ・ダントン(ドワーフ♂)

 無口ではないが物静か。二人の兄的存在。年齢も近め。



「ちょっと腰のあたり見てくれる?」

背中をひねりながら、ライナスがサーレーとダントンに声をかけた。


「怪我でもしたのか?」とダントン。


「罠解除を失敗しちゃってさ。火球魔法の罠だったんだけど、なんか……弱かったんだよね」


「弱かった……? 火球の威力に弱いとかあるのか」

サーレーが笑う。


「なんか温い感じ? 腰に喰らっちゃったんだけどさ、じんわりと暖かくて。服は焦げたけど、気のせいか腰が楽なんだ」


「火球で……温熱治療?」

サーレーがさらに笑いながら目を細めた。


「そうそう! 熱で筋肉がほぐれた感じ。ほら、薪ストーブの前でうたた寝した時のアレに似てる」


「例えが微妙だな……」


「でさ、思ったんだよ。火球でこれなら、飛び出す針の罠を針治療に使えるかもって」


「……お前、罠で健康法を確立しようとしてる?」


「《古代遺跡式ツボ刺激法》ってどうかな! “1日1罠で体スッキリ!”みたいな」


「響きは悪くないのが腹立つな」

サーレーが吹き出した。


「それどころか……壁が迫ってくるやつ、あれ全身圧迫で血行促進! とか」


「……圧迫の強度を加減できれば、まあ気持ち良いのか……?」


「ダンジョンで健康になろう! 題して“冒険療法”!」


ライナスがマグを掲げて笑うと、サーレーも調子を合わせる。


「参加者全員、生き残れば健康!」


黙って聞いていたダントンが、ポツリと言った。







「……それ、罠である必要あるか?」






マグに浮かんだ氷が一つ、カランと鳴る。


こうして今日も、銀竜亭の夜はふけていく。

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