『社畜、異世界で運ゲー無双 〜スキル《幸運》で気づいたら国の英雄になってました〜』

ベガさん

第1話 それでも、俺は働いていた

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第1章「それでも俺は、働いていた」



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 ──深夜2時。


蛍光灯の青白い光が、

誰もいないオフィスを静かに照らしていた。

残っているのは、俺ひとり。東雲。

年齢27、営業部。社畜だ。


カタカタカタ……パチン。

エクセルの数字を追い、メールの謝罪文を打ち、

上司からの赤ペン修正を見直す。

今日だけでブラックコーヒーを5杯、

胃薬を2錠。睡眠は昨日の仮眠室で

2時間が限界だった。


「……あのさ、これ、ほんとに俺の仕事か?」


机の上に山積みの資料。

隣の席の“先輩”の仕事。

課長の「ちょっと頼むわ」。他部署からの丸投げ。

断れない性格が災いして、

気づけば全方位から押しつぶされていた。


それでも──辞める勇気なんて、どこにもなかった。


家に帰っても布団の中で

「明日、行きたくないな」って思うだけ。

でも朝になれば、

結局ネクタイを締めてる自分がいる。


このまま、死ぬまで働き続けるのか?

そんなことを考えながら、俺は画面を見つめた。


──その時だった。


PC画面が、ふっと暗転した。

……バチッ。電源が落ちたわけじゃない。

画面の中心に、光の粒のようなものが浮かんでいる。


「……なにこれ」


気づけば、身体が浮いていた。

重力がなくなる。視界が回る。耳がぼうっとする。


──そして、真っ白な世界へ。


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目を開けると、

そこは見たこともない石造りの神殿だった。

床には魔法陣。周囲には甲冑の兵士たち。

そして、中央には──美しい銀髪の少女。


「目覚めましたか……勇者様」


……は?


どうやら俺は“異世界”とやらに召喚されたらしい。

理由は、魔王との戦争が激化しているから。

「異世界の勇者の力に頼るしかない」とかなんとか。


「我が国はあなたを全力でお迎えします! どうか……お力をお貸しください!」


銀髪の少女──

エリュシオン王国の王女リュシアは、

涙ながらに頭を下げてきた。


(……これ、夢じゃないのか?)


社畜から、異世界の勇者? 話が飛躍しすぎている。

だが、違和感はない。痛みも、

においも、現実と同じ。


「勇者様、お持ちのスキルを確認しました」


そして、鑑定された俺のスキルは──


> 《幸運》




「……え、それだけ?」


「はい……非常に珍しいのですが、正直、戦闘向きでは……」


(……は?)


ここでもハズレか。

あのクソ会社を抜けたと思ったら、

次はハズレスキル勇者。


でも──


「……ん?」


騎士のひとりが急に転び、

倒れ込んだ拍子に俺の足元へ

“古びた巻物”が滑ってきた。


「……それは! 王家の秘書! 何故こんなところに!」


なんとなく拾い上げて開くと、

そこには意味深な一文があった。


> 《幸運》とは、因果律を操る

“神の残した最後の祝福”である




「…………?」


この瞬間から、

俺の“運だけ”の成り上がりが始まった。



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