『この10歳少女(男)、世界を救う使命があるらしい』

黒Ninja

プロローグ 「昼休みのベンチと、はじまりの風」

昼休(ひるやす)みの空(そら)は、妙(みょう)に青(あお)かった。


東京(とうきょう)の片隅(かたすみ)、オフィス街(がい)のビル群(ぐん)に囲(かこ)まれた小(ちい)さな公園(こうえん)。

六十歳(ろくじゅっさい)の独身(どくしん)男性(だんせい)――名(な)を成田幸三(なりたこうぞう)は、そのベンチに腰(こし)を下(お)ろした。


弁当(べんとう)を広(ひろ)げる手(て)が、わずかに震(ふる)えている。

三十年以上(ねんいじょう)勤(つと)めてきた会社(かいしゃ)は、人(ひと)手(で)不(ぶ)足(そく)と業績(ぎょうせき)不振(ふしん)で、今(いま)や地獄(じごく)のような労働環境(ろうどうかんきょう)だった。


「……今日(きょう)も、しんどいな……」


誰(だれ)に言(い)うでもなく、ぽつりとつぶやいた。


そんな時(とき)、ふと目(め)に入(はい)ったのは、公園(こうえん)の隅(すみ)で倒(たお)れている鳩(はと)だった。


「おい、大丈夫(だいじょうぶ)か?」


気(き)づけば弁当(べんとう)を置(お)き、駆(か)け寄(よ)っていた。


鳩(はと)は翼(つばさ)を痛(いた)めているようで、羽(は)ばたくこともできずに震(ふる)えている。


「……水(みず)、いるか?」


自動販売機(じどうはんばいき)でペットボトルを買(か)い、手(て)を添(そ)えて水(みず)を差(さ)し出(だ)した。


すると、鳩(はと)が小(ちい)さく鳴(な)いた。


「……よかった。少(すこ)しは、楽(らく)になったか?」


ほんの、ささやかな善意(ぜんい)。

誰(だれ)に見(み)られるわけでもない、自己満足(じこまんぞく)かもしれない。


だが、次(つぎ)の瞬間(しゅんかん)――世界(せかい)が、音(おと)もなく崩(くず)れ落(お)ちた。


視界(しかい)が真(ま)っ白(しろ)になり、体(からだ)が宙(ちゅう)に浮(う)かぶ。


(ああ……なんだこれ……死(し)んだのか……?)


どこか懐(なつ)かしく、温(あたた)かい光(ひかり)の中(なか)で、声(こえ)が響(ひび)いた。


『見(み)ず知ら(し)らずの者(もの)に手(て)を差(さ)し伸(の)べた、その善意(ぜんい)――確(たし)かに、受(う)け取(と)った』


『あなたの魂(たましい)は、新(あら)たな使命(しめい)のもと、生(い)まれ変(か)わります』


「……え?」


意識(いしき)が途切(とぎ)れた、その瞬間(しゅんかん)。

成田幸三(なりたこうぞう)の物語(ものがたり)は、終(お)わり――そして、始(はじ)まった。

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