第34話 ありがとう、感謝してる
俺は、変われただろうか?
※※※
会場の川辺は遊歩道に沿って整備されている場所だった。
ここで、参加した生徒たちが思い思いに短冊を貼った小舟を流していた。 俺と北野は実行委員から短冊と灯籠とマッチ、それにバスケットの籠と同じくらいの大きさの小舟を渡された。
「はい、短冊」
「ありがとう」
俺が北野の分を渡すと彼女は微笑んで受け取った。
「なんて書くつもり?」
「大地君の幸せよ」
「恥ずかしいな・・・」
「本当のことを書かないと願いがかなわないわよ」
「そうか」
「大地君は?」
北野は俺の目を見た。
「それはもちろん、北野さんの幸せ」
「自分のことは良いの?」
「北野さんだって同じじゃないか」
俺と北野が少し言い合いになりかけた。けど、そんなのは続かなかった。俺と北野は笑い合った。
俺たちが流す番が来た。
俺が舟、北野が灯籠を持って水辺に近づく。そして舟の中に互いの短冊を貼り、火が灯った灯籠を載せて水面に置いた。
二人で舟を押す。すると、舟は川の流れに乗っていった。
俺はあの舟が死後の世界の者へではなくてこれからも生きていく者たちへのエールなんだと思えた。
「大地君とこんなことが出来るなんてね。何か不思議よ」
「うん、本当にね」
この時に北野の頭の中には何が浮かんでいるのだろうかと思った。
桜井のこと? それとも俺のこと? いやいや、北野自身のことかもしれない。
「参加してよかった」
俺は正直にそう思った。
「私もよ」
俺のそばに北野がいた。お互い、流れていく舟を見つめながら。
「ねえ、大地君はこれからどうしたい?」
「え? 何、急に」
「答えて、どうなの?」
「そうだな・・・・・・。人の役に立つことをしたいな」
俺は胸に手を当てて言った。
「今の大地君にピッタリじゃない。応援するわ」
俺は北野の方を向いた。
「北野さんのおかげなんだよ?」
「え? 私の?」
「そうだよ。あなたの優しい想いが伝わってね」
俺は頭を下げた。
「本当にありがとう。北野さん」
北野は落ちつかない様子で俺のしている行為を制止しようとした。
俺は頭を上げる。そして言った。
「やっぱり俺、北野さんが好きだ」
どうしても言いたかった。感謝してる。
「ありがとう・・・・・・」
俺はそう言った。
北野が目線を逸らしていた。そして震える声で言った。
「私も・・・・・・大地君が・・・・・・好き」
俺たちは顔を上げられなかった。なぜなら周りには大勢の生徒たちがいたからだ。見ていた同級生の一部でひそひそと囁き合う声がしていた。
水辺では虫が泣いていた。風がサーと吹く。
時間が止まり、この世界には俺と北野しかいない気がした。
空は星で輝いていた。
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