第17話 付き合ってあげてもいいよ

 桜井春は、俺のことを非難するかもしれない。けど、話してみればもしかして。


※※※


 桜井春はセミロングの髪にぱっちりとした目と少しふっくらした顔が特徴の子だった。

 俺はかつて、彼女の優しさに好意を寄せてストーカー行為をしてしまった。もう反省だ、俺。


「ずいぶんと、帰りが遅いのね」


北野が桜井春に言った。


「最近、習い事を始めたの。だからよ」


桜井と北野は親友なのかもしれなかった。下の名前を呼び合うなんて、俺には考えられないことだから。


「それはそうと、またカフェにいたんだ。お疲れ」


 桜井は北野とは話をした。けれど、俺には顔も合わせなかった。やっぱり許されていないんだな、俺。

 そんなことを考えていると、急に北野が俺に話題を振った。


「青山君、あいさつくらいはしたら? 目が死んでるわよ」


北野がそんなことを言った。


「う、うーん・・・・・・おはよう」


なにが、おはようだ。もう夜だろうが。


「う・・・うん。おはよう?」


桜井が俺のあいさつに困惑していた。申し訳ない。


 これを見た北野が呆れたような顔をしている。 全く、もう。という具合にだ。

 すると、何かをひらめいたかのような顔で、俺の顔を見た。


「ねえ、明日、三人で一緒に勉強しない?」


北野が桜井と俺に言った。桜井が驚いているようだった。俺も驚いている。


「ねえ、そうしよう。春いいよね?」


 困惑気味の桜井に半ば強引の北野。

 北野さん。ちょっとあなた、暴走してないかい?


「でも」


桜井が断ろうとしているようだった。それはそうだろう。俺も気まずい。


「青山君。あなた、もう反省してるでしょう?」


北野が俺に言った。ストーカーの件だ。


「そうだけど、そんな簡単に許せないことだから。桜井さんも嫌がってそうだし」


俺は改めて、謝罪の言葉を言ったつもりだった。


「許してないよ」


桜井は言った。


「……許してないよ。ずっと、ね。だけど……ちゃんと反省してるって信じられるなら、付き合ってあげてもいいよ、勉強くらい」


真剣な表情を見せる桜井だった。

俺は、答えた。


「うん、誓う。二度と桜井さんや他の女子を怖がらせないようにする」


真剣に答えた。


 二人は俺をじっと見た。街灯の光が彼女たちの表情をはっきりと写しだした。そして前から来る車のライトにあたる。


「よし、じゃあ決まりね」


俺と桜井を見た北野は納得したような顔をして言った。

 

 こうして、明日(休日)もデート(勉強会)は続くようだった。

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