花火を貴方と

なゆお

花火を貴方と

ヒューン…ドーン!!


暗い闇に一筋の光が立ち上り、上へと飛んで飛び散った。


それは、何年経っても、何年見ても変わらない感動と、満足感を感じさせてくれる。


そしてあの事を今でも思い出す。


「確か、10年前だったけ。私が忘れられない、思い出になったあの花火は…



―――――――――――――――――――――――

雨は好きだ。


雨の音だとか、雨の匂いだとか、雨に濡れて帰るのだとか、そういうのが好きだ。


でも、今日は初めてそんな雨の事を嫌いになった。


『今回の花火大会は雨の為中止と……』


唯一の友達との約束。

だが、急な予定で遅れ、挙句の果てにはこれだ。


「…帰ったかなぁ…」


私は、何かを言ったのに、言ってない感じがした。

感覚が麻痺してる。


そんなのに気がついたのは、下駄で足が擦れて血が出ているのに全然痛くないのに気がついた時だった。


その時になったら、もう、私はどこかに進んでいた。

家に戻る訳ではない。


だからと言って家から遠のいてる訳でもない。


むしろ、何処を歩いてるか分からなくなってしまった。


「…」


そういえばと、頭に当たる粒の痛さが無くなったのを思い出し、上を見る。


「…」




…?月?


私は、先程まで雨が降っていたのに月が見える事に疑問を持った。

雲が、少なくなっている。

そして、雨も降っていない。

そうだと分かったら、もう、我慢出来なくて、泣いて、泣いて

泣きじゃくって、家に帰ろうと足を引きずった。


そしたら、自転車の音が聞こえて、すぐ隣で止まった。



「…花?」


「…雨太あまた君?」


雨太君は、部活が一緒で趣味も合って、良く遊んでいた人だ。


「どうしたんだ?こんな所で?」


「…花火大会が、」


なんとか説明しようとしたけど、その後の言葉を言えなかった。

言いたく、なかった。

ただ、認めたくなかった。


「あぁ、雨降ってたもんな」


「っ…」


いや、花火大会が中止になったなんて、市民だったら分かる事だったか。


私は、そんな事も分からないくらい、頭が回らなくなっているのだろうか。


「…よし、着いてこい」


けれど、雨太君はそんな私に手を差し伸べてくれた。





私と雨太君は、手を繋ぎながらしばらく歩いていた。


「ねぇ、これ何処に向かってるの?」


「内緒」


しばらくして海が見える砂浜まできた。


雨太君は自転車を置き、スマホを触って、また私の手を取って走り出した。


「えっ?」


「いいから走って!」


そのいう通りに血だらけの下駄で走った先には、


ヒューン……バン!!!


暗い闇に一筋の光が立ち上り、上へと飛んで飛び散った。


その光は、小さいにしろ、私にとっては大きく見えた。



「待たせておいておせーよ!」


「仕方ねぇだろー!」


「皆…!?」


そこには、花火大会へ一緒に行こうと約束した友達がいた。


「皆、花火見たくて、そこら辺の打ち上げ花火買ってきたんだ!ほら、手持ち花火もあるから一緒にやろうぜ!」


「…!うん、うん!」




それから皆で打ち上げ花火を見て、手持ち花火をして、線香花火を誰が1番長く光るか勝負した。



私は、皆の優しさと、悔しさが含まれている花火を綺麗だと思った。


けれど、それよりも、

私を元気づけようと、皆を待たせてまで、私に見せようとした彼の打ち上げ花火の方が、

綺麗で、忘れられない光となった。



―――――――――――――――――――――――


あの時は幸せだったなぁ。皆と、雨なんか嫌いだぁ!て叫んで、皆で楽しんだ」


夜の空に咲く光の花を見ながら言う。


「けれどね、今の方がとても幸せなの。なんでかって?」


決まってるでしょ?



「それはね、今でもあなたの隣で花火を見れてるからだよ」


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