第24話




 大舞踏会開催の前日。テラコーヤの国王が遂にハイスーク入りした。

 開催日のギリギリに来たのは、本番前の準備期間中に国王が滞在していては、諸侯の皆が落ち着いて社交もできないだろうと配慮した。


 案内役を担う側近周りの者は先んじて派遣されており、既に十分な下調べも済ませてある。国王の到着とハイスーク領主の歓迎はスムーズに行われた。


 明日はいよいよ大舞踏会の本開催日という事で、城に宿泊しているいずれの領主一行も、準備と最終確認に余念が無い。

 この日ばかりは、手持ち無沙汰な使用人達も外出は避けて、何かあった時の為に待機していた。




 一番立派な客室に案内された国王一家。

 王家の威厳という体面を保つために、ハイスーク領都の発展具合や城の各設備類に対して大きなリアクションは見せなかったが、内面は動揺と感動と期待で大興奮していた。


「では、陛下のご挨拶と開催宣言をもって始めさせて頂くという事で宜しいのですね?」

「うむ。日程はこの計画書通りで問題なかろう。進行も全てそちらに任せる」


「承知しました。それでは、明日の開幕の刻までごゆっくりお過ごし下さい」


 大舞踏会の進行に関する打ち合わせが終わり、ハイスーク領主が部屋を辞すると、国王は側近達を集めて密談を始めた。


「何か掴めたか?」


「いいえ。先行させた影達からも、表立って知られている情報以上のものは今のところ」

「城下街で冒険者や商人に扮した者等も同じく」

「精鋭の騎士隊との混合班が地下迷宮に挑んでいますが、これといった手掛かりはまだ」


 ふむ、と一つ溜め息を吐いて椅子の背もたれに身を預ける国王。


「王都のダンジョンで同じ事をするのは無理か」

「ここまでの制御は流石に」


 ハイスークのダンジョン制御は、あまりにも進み過ぎている。テラコーヤ王室の秘匿するダンジョン制御術とは、別の方法を見出したのかもしれない。


「西の果ての森が怪しいな。あそこで研究していたのやもしれん」

「調べさせます」


 ハイスークから上がって来た報告書は、人間に友好的なイレギュラーダンジョンと交渉したという内容だったが、そのような御伽噺など国王――テラコーヤ王室は信じていなかった。

 これほどの富をもたらせるダンジョン制御術。是が非でも手に入れたい。


「何としても、新しい人工ダンジョンの構築と制御法を入手せよ」

「御意」


 暗部を指揮する側近達が、それぞれの役割を果たすべく退室していく。

 テラコーヤの国王は、王都カンソンがこのハイスーク新領都と同等の進化を遂げる事を夢想しつつ、明日の大舞踏会本番に向けてハイスーク側が提示した進行表の再確認をしたりして過ごした。




 魔導技術がふんだんに使われた快適な建物内で過ごしていると忘れがちになるが、ここは異界化領域の上であり、実質ダンジョンの中に居るのと変わりない。故に――


「ふーむ、今の話から推察するに、王都カンソンのダンジョンは人工ダンジョンなのか?」


 ――領域内での密談などは、街づくり好きな迷宮核に全て筒抜けであった。


 街づくり好きな迷宮核がこれまでに得た、この世界の歴史知識によると、人工ダンジョンが成功した例はない事になっている。

 が、恐らく王都カンソンの人工ダンジョンは発生と安定と制御に成功したのだろう。王家が秘匿するのも理解できると、街づくり好きな迷宮核は納得する。


「魔核が無いダンジョンなら近付いても大丈夫かな」

『我々が存在しないのならば、成長や拡大の意思もないであろう』


 魔核からのお墨付きで無害なダンジョンと推測された。王都のダンジョンを乗っ取る気はないが、喰い合いが発生しないのならば、近くを通っても問題ないはず。

 街づくり好きな迷宮核は、ハイスークの領主に提案していた『とある策』の実行を促す事にした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る