第20話
西の森の魔核が穢れ山ダンジョンを摂り込んだことで膨大な魔素を得た街づくり好きな迷宮核は、穢れ山を巨城に建て替えて冒険者の街を城下に組み、穢れ山一帯を城塞街として再編した。
そして現在、この街はハイスーク領の中心として遷都がなされ、領主が住む新都になっている。街の運営は元穢れ山の中腹の魔核が担っており、今日も滞りなく人々の暮らしが営まれていた。
「お、領主さんから手紙が来てる。領地の格付け大会は上手くいったか」
領主のお墨付きでハイスーク領の全域に領域化街道を張り巡らせ、領内にある全ての街や村を領域化街道網に接続し終えた頃には、王都に出かけていた領主から帰還の知らせがあった。
先刻、領主に相談されて協力した大規模な催し『王国功労賞』も、まずは一段落したようだ。
「予定通り、
街づくり好きな迷宮核は、これでまた大量の魔素を得る機会が増えたと、ホクホク気分で領域化街道周辺の整備を続ける。
接続した他の街や集落、村々の整備も同時に進めているので結構な量の魔素を消費しているが、新領都に多くの人が移り住んで来た事で、今のところほぼトントンの収支である。
穢れ山城塞街を再編する過程で分かった事だが、人一人分から得られる魔素の量には割とばらつきがある。それも、血筋による魔素量の違いが意外と大きかった。
熟練冒険者と新人冒険者、はたまた大人と子供では、普通に鍛えられている方、成人している方が得られる魔素量も多い。
ところが、同じくらいの歳の人間で平民と貴族では、貴族から得られる魔素量の方が明らかに多かったのだ。
新人冒険者の中の中くらいと、特に鍛えていない貴族の若者から同じくらいの魔素量を得られる。
ハイスークの領主が正規軍を率いて初めて領域内に入った時に、あれほど大量の魔素を得られたのは、領主の血筋と彼自身が冒険者として鍛えられた古強者であった事。
加えて、正規軍の騎士達も貴族の血筋である上に、鍛えられている現役の強者達である。一般の冒険者集団から得られる魔素量を軽く超えていたのも、納得の理由であった。
そんな
――実際のところは、序列一位になれるほどの力を持った領主から富を絞り出させて、少しでも力を削っておこうとする王室の、統制の為の策謀のような色を持つイベントでもあるが。
「少しでも長くハイスーク領に留まるよう、最高の舞台を演出しよう」
街づくり好きな迷宮核が大舞踏会イベントに注力できるよう、領域化街道網に接続した他の街や集落、村々の整備を済ませて、それらの一時管理を西の森の魔核に任せたいところであった。
『まて、私が管理するのか』
「一時的に頼む。自分のダンジョンなんだから全体を把握しておくのもいいだろう?」
今はまだ殆どの街や村々は領域化した街道で繋いでいるだけだが、それでも干渉できる範囲はとてつもなく広大である。
安全な道が敷かれた事で人々の移動も活発になり、様々な物品が領内で流通し始めた。外から入って来るものもあり、出て行くものあるが、それらを狙う悪漢も内外から湧いて出ている。
流石に街づくり好きな迷宮核だけでは、十全な管理に手が足りない。
「盗賊の類は吸収して良いから、この瞬間即死トラップと防護壁を駆使してくれ。できる?」
『やれなくは、ないが……』
まだ未成熟な西の森の魔核とて、ダンジョンの中枢たる存在。迷宮核に知識を与え、教導するだけの力は持っている。当然、迷宮の運営術も心得ているのは、穢れ山の魔核達を見れば明らか。
しかし、元来迷宮核の主人であるはずの魔核が、迷宮核の指示で動くのはどうなのかという疑問に躊躇していた。
「え? そこ重要か?」
魔核と迷宮核は運命共同体であり、ダンジョン管理は共同事業。どちらが指示する側とかされる側にこだわる意味はあるのかと問う、まったく指示を聞かない街づくり好きな迷宮核。
思わずジト目を向けるような気配をまとう西の森の魔核だったが、言われてみれば確かに、魔核が指示だけ出して迷宮核の後ろでふんぞり返っていても、何ら有意義な事に繋がらない。
この
恐らく、この大陸で最大規模となるであろうダンジョンの中枢たる魔核が、自分の庭の全貌さえ把握できていないなど、そちらの方が問題である。
「じゃ、俺は大舞踏会の舞台づくりに専念するから、そっちはよろしくな」
『うむ』
話がまとまったので自分の作業に戻る街づくり好きな迷宮核と、納得はしたが何か解せない気がする西の森の魔核であった。
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