第十六話:根に吸われるもの、咲くことを許されぬもの

【SE:地の底から響くような、低く重い脈動音】

【場面:祠の床、絵の下に穿たれた裂け目。その奥に赤黒い根が這う】


「その痛みすらも、この地は“根”に吸わせて咲こうとしている」

青年が、呟くように言った。


黒鉄の柱から伸びる、赤黒く膨らんだ根。

それはまるで呼吸する臓器のように、脈打っていた。

血ではない、“記憶”を吸っているように。


「咲かせるのは、希望じゃない。

 この地は、痛みと喪失を“糧”にして、花を咲かせようとしているんだよ」


「じゃあ……」響の声が、かすれた。


「じゃあ、わたしたちは、誰かの苦しみを踏み台にして、花を咲かせてるっていうの?」


青年は首を横に振った。

「違う。踏み台にしてるのは、“この地”だ」

「お前たちは……選ばされているんだ。痛みか、咲くことかを」


【SE:根の奥から、微かな泣き声】


そこには、“顔を塗り潰されたまま”の子どもたちがいた。

声なき贄たち――その魂が、根に縛られたまま、咲くこともできず、ただ土に沈んでいた。


響は、強く唇を噛んだ。

絵の下、裂け目の淵に手を伸ばす。


「だったら、咲かせてあげる」

「あなたたちの痛みごと。記憶ごと。名前ごと」

「根に吸われるだけの存在じゃない、“咲いていい花”だって、ここにあるって――」


響の指先から、一滴の血が落ちた。

それが根に触れた瞬間――


【SE:地鳴り。花が咲くような、濡れた音】


一輪の花が咲いた。

それはどこまでも黒く、しかし、中心に金の光を宿した花だった。


「……“贄の花”が、咲いた」


青年の目がわずかに揺れた。

その表情に、憐れみではなく、畏れが宿っていた。

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