宇宙人の墜とし方
恂
0回目『みんなみんな宇宙人』
屋上に佇む女子生徒。
そう聞いて、普通は何を思い浮かべる。
荘厳な青空。
屋上の縁をなぞるようにある柵と、その向こうに見えるミニチュアのような町。
しっかり地にひっついていた心が重量をなくして、〝青春〟なんて言葉が空へ連れてってくれるような感覚。
女の子の髪色は? 青、赤、紫。自分的には白色であるとありがたいものだ。
黒いセーラー服に繊細な長髪をたなびかせて、ヒロインはこちらに笑いかけてくれる、そんな幻想を、自分は思い浮かべる──しかし、現実は非情である。
「この世界には宇宙人しかいない、先生も、親も、お前も、みんなみんな宇宙人! クソみてぇな世界!」
おおよそ文字ぐらいでしかお目にかかれないだろう乱暴な言葉が、無機質なコンクリートに叩きつけられた。
ただ青いだけのただの空。
思ったより高いフェンスが屋上の縁をなぞり、その向こうに見えるのは山ばかりだ。
強風が肌に吹きつけて感覚がおかしくなるし、強すぎる日差しで頭のてっぺんが燃え上がりそう。
女の子の髪色がどうだというのだ。
日本と呼ばれる国で学生生活を送るのならば、大体見かける髪色は大体黒か茶。
頭上、フェンスの上で立つ女子生徒は、少し茶色がかったショートボブ。着ているのはなんの変哲もないブレザーだ。
どう足掻いたって心は現実感という重量を手放さず、軽率に青春なんて文字を当てはめたがってしまう自分に嫌気さえ差してしまいそうだった。
──それでも、燃え上がる何かがあった。
それは感じたくない類の現実感。
自分がどうしたいとかそんな理想さえ見えなくなってしまう焦燥感、願い、強い何か。
この十五年間初めて抱えるようなとてつもない義侠心が、腹の底から飛び出してきた。
「危ない!!」
「みんな死んじまえ!」
共に発せられたのは、自分とは全く対極な、世界への怨嗟であった。
落ちた。
ちょっと、鈍い音がした。
精密機械を落としてしまった時のような、いいや、そんなんとは比べものにならないほどの恐怖が足元から迫り上がった。
考えたくない展開。
しかしそうとしか考えられない展開。
フェンスの下に広がっている当然の光景。
きぃん。
余韻のごとく訪れた耳鳴りと共に、ちらりと視界に映った。
赤色、赤色。赤色だった。赤色だった。紛れもなかった。赤があった。広がっていた。
「ぃぁ」
まるで自分も、赤を全て抜き取られてしまったようだった。
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