『配信デスゲーム 〜視聴者1000万人が僕らの生死を決める異世界〜』

ソコニ

第1話「ようこそ、死の舞台へ」



やあやあ、君たち。突然だが質問だ。


君は『死』というものを、エンターテイメントだと思うか?


まあ、答えはどうでもいい。どうせ僕の話を聞いてくれるだろうから。この物語の主人公、春日ハルトの話を。


---


「うわあああああああああ!」


空から落ちている。


いや、正確には『落ちていた』と言うべきか。過去形で語るということは、つまり僕は生きているということだ。少なくとも今この瞬間は。


僕の名前は春日ハルト。17歳、高校二年生。特技は人の顔色を読むこと。趣味は一人でいること。将来の夢は特になし。


そんな平凡な、いや平凡以下の僕が、なぜ空から落ちているのか。


答えは簡単だ。異世界召喚である。


「異世界召喚って、ライトノベルの読みすぎじゃない?」


そう思った君、その通りだ。僕もそう思う。でも現実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、僕は本当に異世界に召喚されてしまったのだ。


召喚された経緯? 覚えていない。気づいたら空中にいた。


理由? 知らない。僕は特別な人間じゃない。


目的? それを今から知ることになる。


ドスン。


着地した。痛くない。なぜなら、足元にはクッションが敷き詰められているからだ。まるで、落下することを前提としているかのように。


「あら、来ましたね」


声がする。振り返ると、そこには—


美少女がいた。


いや、美少女という言葉では足りない。『美少女』という概念を具現化したような、完璧すぎる美しさを持つ少女が立っていた。


髪は銀色で腰まで届く長さ。瞳は青い宝石のように透明で、肌は陶磁器のように白い。着ている服は—司会者の衣装? なぜかそんな印象を受ける。


「初めまして、春日ハルトさん。私はこの世界の案内役、ルナと申します」


ルナと名乗った少女は、完璧な笑顔で僕に向き直る。その笑顔があまりにも作り物めいていて、僕は背筋に悪寒を感じた。


「あの、ここはどこで—」


「説明は後にしましょう。まずはあちらをご覧ください」


ルナが指差した方向を見て、僕は絶句した。


巨大なスクリーンが空中に浮かんでいる。大きさは—映画館のスクリーンの十倍はあるだろうか。そして、そのスクリーンに表示されている文字が—


**【視聴者数:10,000,000人】**


一千万人。


「え?」


僕は目を擦る。見間違いじゃない。確かに一千万という数字が表示されている。


「あ、あの、これは—」


「ライブ配信です」


ルナがにっこりと微笑む。その笑顔が、なぜか恐ろしく見えた。


「ライブ配信って、僕が配信されてるってこと?」


「ええ、そうです。この瞬間も、一千万人の視聴者があなたを見ています」


スクリーンの下部に、高速でスクロールするコメントが表示されている。


『新しい参加者きたー』

『顔普通だな』

『つまらなそう』

『早く死ねよw』

『どうせすぐ消える』


僕の心臓が早鐘を打つ。


「参加者って、何の参加者ですか?」


「デスゲームです」


ルナが当然のように答える。


「デス、ゲーム?」


「はい。死ぬか生きるかを賭けたゲームです。負ければ死亡、勝てば次のゲームに進めます」


僕の頭が真っ白になる。


「ちょ、ちょっと待ってください。僕は何も—」


「同意も承諾も必要ありません。あなたはもう参加者なのですから」


ルナの声が、急に冷たくなった。


「でも安心してください。完全に理不尽というわけではありません。ゲームにはルールがありますし、何より—視聴者の皆さんが応援してくださいます」


スクリーンのコメント欄を見ると—


『こいつ弱そう』

『5分で死にそう』

『面白くなさそう』

『次の参加者まだ?』


これが応援?


「あの、視聴者の人たちが僕の悪口を—」


「悪口ではありません。率直な感想です」


ルナが微笑む。その笑顔に、僕は寒気を感じた。


「この世界では、視聴者の皆さんが神様です。彼らの投票があなたの運命を決めます」


「投票って?」


「例えば、『今回のゲームの難易度』を決める投票。『ハンデの有無』を決める投票。そして時には『誰を最初に殺すか』を決める投票も」


僕の足が震える。


「ちなみに、今回は特別に『自己紹介タイム』を設けております。視聴者の皆さんに、あなたという人間を知ってもらいましょう」


スクリーンに新しい表示が現れる。


**【自己紹介タイム開始】**

**【制限時間:3分】**

**【視聴者投票:印象評価】**


「3分間で自己紹介をしてください。視聴者の印象評価によって、最初のゲームの条件が決まります」


僕はスクリーンを見上げる。一千万人が僕を見ている。コメント欄には相変わらず心ない言葉が流れ続けている。


『早くしろよ』

『つまんね』

『何こいつ』

『普通すぎ』


どうしよう。何を話せばいいんだ。


「えっと、僕の名前は春日ハルトです。17歳の高校生で—」


『知ってるよ』

『どうでもいい情報』

『つまらん』

『次いけ次』


コメントが容赦ない。


僕は必死に続ける。


「趣味は読書で、特技は—」


『だから何?』

『興味ない』

『死ねよ』

『時間の無駄』


胃が痛い。でも話し続けなければならない。


「特技は、人の感情を読むことです」


その瞬間、コメントの流れが少し変わった。


『感情を読む?』

『超能力者?』

『嘘だろ』

『証明しろ』


「あ、いえ、超能力とかじゃなくて、表情とか仕草から相手の気持ちを推測するのが得意なんです」


『ふーん』

『微妙』

『それだけ?』

『つまらん能力』


やっぱりダメだ。何を言っても否定される。


残り時間1分。


「あの、僕は別に特別な人間じゃありません。でも、もしここで死ぬとしても、最後まで諦めません」


『おー』

『やる気だけは認める』

『でも無理だろ』

『死亡フラグ』


残り30秒。


「僕には帰りたい世界があります。平凡だけど、大切な日常があります。だから、絶対に生き残ります」


『日常とか興味ない』

『平凡アピールうざ』

『でも頑張れ』

『死ぬなよ』


あれ? 少し優しいコメントも混じってる?


「時間です」


ルナが手を叩く。


スクリーンに投票結果が表示される。


**【印象評価結果】**

**【つまらない:60%】**

**【普通:35%】**

**【面白い:5%】**


「残念ですね。『つまらない』が過半数を超えました」


ルナが困ったような顔をする。でも、その表情も演技っぽい。


「ということで、ハルトさんの最初のゲームは『ハード難易度』に決定です」


僕の心臓が止まりそうになる。


「でも大丈夫です。死ぬ確率は90%程度ですから」


「90%って、ほぼ確実に死ぬじゃないですか!」


「そうですね。でも10%の希望は残っています」


ルナが微笑む。その笑顔が、悪魔のように見えた。


コメント欄を見ると—


『ざまあwww』

『ハード難易度きたー』

『10%とか無理ゲー』

『死ぬの確定』

『でも頑張れよ』

『応援してる』


あれ? また少し優しいコメントが。


その時、僕の頭の中に奇妙な感覚が生まれた。まるで、スクリーンの向こうにいる人たちの感情が、直接流れ込んでくるような—


『面白半分で見てる人』

『本気で応援してる人』

『死んでほしいと思ってる人』

『同情してる人』


様々な感情が渦巻いている。これは—


「あ」


僕は気づく。これが僕の特技、『人の感情を読む力』なのかもしれない。しかも、この世界では普通の人間相手だけじゃなく、画面越しの視聴者の感情まで読めるのかも。


もしそうなら—


「ルナさん」


「はい?」


「この世界のルールをもう一度教えてください。詳しく」


ルナが首を傾げる。


「なぜですか?」


「ゲームに勝つためです」


その瞬間、コメント欄の流れが変わった。


『おお?』

『やる気出した』

『ルール確認は基本』

『頭いいじゃん』

『これは期待』


そして僕は確信した。


この『感情を読む力』こそが、僕がこの死のゲームを生き抜くための唯一の武器なのだと。


「面白いですね、ハルトさん」


ルナが初めて、本当に楽しそうな表情を見せた。


「では、詳しいルール説明を始めましょう。ただし—覚悟はできていますか?」


僕は深呼吸する。


「はい。僕は、絶対に生き残ります」


スクリーンに新しい文字が表示される。


**【第1回デスゲーム開始まで:24時間】**


こうして、僕の地獄のような配信生活が始まったのだった。


---


ちなみに、この時の僕はまだ知らなかった。


視聴者1000万人の正体が、実は過去にこのゲームで死んだ人たちの魂だということを。


そして、僕と一緒に戦うことになる5人の少女たちが、それぞれどれほど強烈な個性を持っているかということを。


でも、それはまた別の話。


とりあえず今日のところは、僕が『死の舞台』に立たされたということだけ覚えておいてくれ。


次回、第2回デスゲーム「人狼村の殺戮」編。


ゲーマー少女リコとの出会い、そして僕の能力『エモパス』の真の覚醒が待っている。


乞うご期待。


—もちろん、僕が生きていればの話だが。

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