目的地の向こう側へ

コウノトリ🐣

第1話 誘拐された気分

 どこへ連れて行かれるか分からない恐怖を感じたことがあるだろうか?

 胸の奥から冷えて。それでいて、頭が沸騰するような焦りを覚えるような。鉄の中に閉じ込められて運ばれている私にはもう何もできない。


「早く止まって」


 そんなことを思ってバタバタしている。今ここで置いていかれても私はきっとどこかなんて分からなくて心細くなっちゃうけど。早く止まって、私の知っている場所から離されるのは怖かった。取り出したスマホはどことも知れない場所を高速で移動している。


「早く止まってよ」


 人混みに呑まれて乗ってしまった特急電車の中、何も考えることができなくて、私は祈る事しかできなかった。

 周囲の目は、まるで私のことを「おかしな人」とでも言いたげで。みんなが険しい顔をして乗っていることが、何よりも私を小さくさせた。


「ねえ、この電車はいつ停まるの?」


 静かにしないといけない電車の中でその一言が言えなかった。私の目的地はとうに通り過ぎてスマホの画面からははみ出てしまっていた。また一つ、一つ。窓から見える駅名の看板が通り過ぎてゆく。

 待ちに待ったアナウンスが教えてくれた停車駅はどこの場所とも知れなくて、電車から逃げ出せたのに、頭が真っ白なのは変わらなかった。


「……あ、あの! 舞呉駅はどこですか?」


 訳が分からなくて、駅員さんに前のめりで問いただして教えてもらえた。私の勢いに引いていた駅員さんには申し訳ないことをしたと思う。でも、それはしょうがないの。やっと、聞ける人に会えたから。

 縄張りを追い出された動物もこんな気持ちなのかもしれない。この時ばかりは人里に降りてきて人を襲ってしまう彼らの気持ちが分かった気がした。こんなにもすでに怖いのに。普段見かけない人間がいたら、攻撃して身を守ろうと思うくらいには怖いよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

目的地の向こう側へ コウノトリ🐣 @hishutoria

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る