第25話 その手、離さないでね

日曜日の朝。

待ち合わせ場所に現れた佐倉くんは、制服じゃない私の服を見て、ほんの少しだけ固まった。


「……その服、すごく似合ってる」


「そ、そう? 佐倉くんも、私服カッコいいよ」


なんだろう。制服のときより緊張する。

でも、それが“ちゃんとデートしてる”って感じがして、少しだけ嬉しい。


* * *


映画館、カフェ、雑貨屋さん。

どこへ行っても、ふたりの時間はあっという間だった。


「……手、繋いでもいい?」


歩道を渡る直前、不意に佐倉くんが言った。


「うん」


繋がれた手は、ちょっと汗ばんでて、でも安心する温かさだった。


* * *


夕方、観覧車のてっぺん。

沈んでいく夕日を見ながら、佐倉くんが静かに言った。


「なあ、しの。俺、もっとしののこと知りたい。もっと近くで、もっとちゃんと、大事にしたい」


ドキドキが止まらない。

目が合って、自然と体が傾いて……


キス、する?って思った瞬間——


「……って言ったら、今、期待した?」


「ばっ、ばか……!」


笑い合う空気が、くすぐったくて、愛おしくて。


そして次の瞬間、佐倉くんは優しく私の額に、そっとキスをくれた。


「本番は……ちゃんと覚悟できてからな」

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