走者

---⋯1

第1話

 私は走っていた。

 意識がハッキリしない。さっきまでバーで呑んでいたからかもしれない。

 後方からまた悲鳴が聞こえてきた…。

 覚えているのは残業で遅くなったこと、彼とバーへ行ったこと、気がついたら道路に沢山の人と倒れていた事、そして…。

「ゲッ…オ゙ェェェェ……」

 そこまで思い出し胃の中身をぶちまけた。一瞬足を止めてしまったが直ぐに走り出した。今ので何人に追い抜かれただろうか…。また悲鳴が聞こえた。


 なんでこんな事になっているのか全く分からない。そもそもそんな事を考えている余裕が私には無い。さっきまで隣で倒れていた彼はもう先頭の方へ行っている。

「ハァ…ハァ…あっ…痛っ」

 脚がもつれてしまい転けてしまった。

 疲労のせいかまだ少し酔いが残ってるせいか中々立ち上がれない。

 次々に後方を走っていた人達が追い抜いて行く。

「お願い…待って…」

 自分の華奢な影に大きな影が重なったのが見えた。

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