第12話 湯あみ
『わたくし、湯あみがしたいですわ』
『魔法で綺麗にしてるだろ。まあ、魔法だと味気ないっては分かる。入ると気持ちいいからな。魔法じゃ味わえない。でも、見たら死刑とか騒ぐなよ』
『もちろん、見たら死刑ですわ』
『メイドに体を洗って貰えば良いから。目隠しして入って良いけど。なんか、ラッキースケベが起こりそうな予感。それに、他人に触られると、声が出るかもな』
『変な声を出したら、分かってますわよね』
『出るものは仕方ない。敏感なのが悪い。俺の体じゃないからな』
『目隠しと、遮音の魔道具を作りなさい。緊急命令でしてよ』
『売ったら儲かりそうだから、作ってやるよ』
目隠しは、光を遮断だな。
これは原理が分かってる。
遮音は、結界に当たった空気の振動をなくす。
これも楽勝だな。
魔道具ができて、風呂が運び込まれた。
日本式ではないな。
西洋のバスタブに似てる。
湯が張られ、良い匂いのする物が入れられた。
石鹸と香料だろう。
花が浮かべられた。
花を入れるなんて贅沢だな。
ツンデレーヌの実家は裕福なのかな?
まあ、俺に関係ないけど。
魔道具を起動。
風呂に入り、メイド3人掛かりで洗われる。
これは声が出るってものだ。
遮音で音が消されてるけど。
拭かれる時も、かなり感じた。
ドライヤー魔道具を作ろう。
バスローブに着替え、ドライヤー魔道具を作る。
「お嬢様、この魔道具は素晴らしいです。ほしいです。いくらですか?」
「あげるわ。材料は高が銅貨5枚でしてよ。使う時はわたくしを褒め称えなさい」
「魔導師になられてから、癇癪を起さなくなりましたね」
俺は些細なことで怒ったりしない。
俺が思うにツンデレーヌは自信がないのが、コンプレックスなんだろな。
弱い犬ほど吠えるとは良く言ったもの。
魔法がもてはやされる世界では肩身が狭いだろうな。
頭が良くて学問ができれば、自信もつくのだろうけど。
頭が良かったら、魔法を習熟してたはず。
他の道を探すとして、女の子では、剣術ってわけにはいかない。
ツンデレーヌは器用ではないから、手芸も無理だな。
しかも短気だから、物作りには向いてない。
何も出来ないというマイトの言葉は正しい。
俺が消える前に、ツンデレーヌができることを何か見つけてやりたい。
出来ない奴は可哀想なんだよ。
プログラマーの俺は良く知っている。
プログラムの仕事ってのは向き不向きがある。
プログラムを組めない奴はいる。
そうなると、バグは量産するわ。
仕事は遅いわ。
ひんしゅく物になる。
そう言う奴は操作さえ苦手。
コンピュータが全盛の世界で、操作が苦手は他の仕事も致命的だ。
農業すら、管理はコンピュータだからな。
可哀想だとは思う。
芸術分野とか、全くコンピュータを使わない何かを探して、再就職を勧めてやったことは何度もある。
ツンデレーヌにも後で何か見つけてやるか。
『あなた、触られた時に嫌らしい想像いたしましたわよね』
『しないよ』
『惚けても無駄ですわ。女って気持ち良いって思いが伝わってきましたわ』
『だって、仕方ないだろ。感じるんだから』
『許しませんわ! 死刑ですわ! 死になさい!』
『分かった、菓子を魔法で作るから、許してくれ』
『そんなことでは騙されませんことよ』
『じゃ、食わないのか?』
『食べないとは言ってませんわ』
魔法でイチゴケーキを作った。
風呂の世話をしてくれた3人のメイドにも食べさせる。
風呂の準備と片付けは、重労働だからな。
平民の魔力量では、風呂を満たすだけのお湯は魔法で出せない。
魔法言語を習っていたら、3人もいれば可能かも知れない。
だが、平民は学校に通う金と暇がない。
ツンデレーヌは受けられる数だけ受けた学校の入学試験で全て落ちた。
まあ、それは別に良い。
「うん、イチゴショートの味ですわね」
『ふわっ、これは何ですの。甘いクリームと、イチゴという果実のバランスが絶妙ですわ。気に入りましてよ』
ツンデレーヌはちょっと苦いチョコレート系よりこっちが好きなんだな。
抹茶ケーキとかは苦手そうだ。
「そっちの、果実の方が大きい」
「文句言わないでよ。配ったのはお嬢様よ」
「同じように見えるけど」
うん、俺の目にも同じに見える。
粒の表面の種の位置すら、一緒に見える。
形もそっくりだ。
もしかして、この世界にイチゴはないのかも。
少なくても、品種改良されたイチゴはないはず。
ああ、魔法が補完したのか。
なるほど、何かの果実を材料にイチゴを作り出しているようだ。
魔力がかなり減ったからな。
プログラム魔法でなければ不可能だと思う。
「魔法で出した果実は全く同じですわ。秤で量ってもいいですけど、同じだったらお仕置きですわ」
「すいません、食べられるだけで満足です」
「ごめんなさい。文句は言いません」
「ほら、言ったじゃない。同じに見えるって」
『イラっときて物をなげたくなりましたわ』
『ツンデレーヌなら、そうだろな。いい機会だ。体が動かせないんだから、耐えることを覚えるんだな』
『あなた、わたくしの親のつもりですの?』
『うーん、助っ人だけど、ヘルプに入れる奴はベテランだ。凄腕の先生と呼ばれる護衛みたいなものだ。雇い主もそういう奴には敬意を払う』
『くっ、仕方ないですわ。あなた、わたくしに雇われなさいな』
『雇われてるけど』
『そうでなくて、事件が解決してもですわ。料理人として、雇ってさしあげますわ』
『報酬は?』
『わたくしに仕えられる名誉だけでは不足かしら』
『駄目だな。共同経営者で、対等だ』
『仕方ありませんわね。ふぁ、眠ります……』
俺の魂がどうなるかは分からないが、恋愛を抜きにしてもパートナーだ。
協力しなきゃデスマーチは切り抜けられない。
探偵なら、決め台詞が必要だな。
「これで、プロジェクトクローズですわ」これを決め台詞にしよう。
斬った張ったの展開にはならないだろうけど、一応、攻撃と防御の魔法を作っておくか。
用心は必要。
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