第4話 不死のカラダ

その巨大な未確認生物は、2つの脚で地上に降り立つや否や身の毛もよだつような唸り声とともに言った。



「勇者ども、久しぶりだな。性懲りもなくやってきたか」



おや、顔見知りかな? それにしてもこのライカンとかいうヤツ、とんでもないド迫力だ。獅子のたてがみ、鋭い爪と牙。邪悪すぎる赤い瞳。5~6メートルはありそうな身の丈は、金色の甲冑で覆われている。その異常なほどの威圧感に、俺はもう立っているのが精一杯。......え、俺の異世界転生、初戦がコイツっすか?



あっ! 目があったよ!? こっち見て何か言ってる! めちゃくちゃ怖えー! これだけでもう失禁寸前......ってか、なんでこっち見んの!? 死んで早々また死にそう!



「......!」



テオが何か叫んでるみたいだけど、もはや俺の耳は着信拒否。なーんも聞こえない。



ゴン!!



その時、俺は頭頂部に鈍い衝撃と痛みを感じた。



「しっかりして」



手で擦りながら振り返ると、ミリィがジットリとした目で俺を見ている。その手には怪しげなドクロを模したオブジェのついた短いロッド。



「痛てーな!」



そう文句を言おうとした俺にミリィは言う。



「いい? さっきも言ったけど、あんたは今不死者アンデッド状態になってるから、アイツに何をされても死ぬことはないわ。私たちパーティーの要はリッカよ。あんたは体を張ってリッカを守って」



リッカ......ああ、あの黒髪おかっぱね。そうか、あいつヒーラーだからか。



しかし、"何をされても死なない"つったって、痛いことは痛いわけだよな? それにしても、俺に武器はないのか? 半裸に素手でどうしろと?



「来る!」



誰かが叫んだ。



見るとその言葉通り、ライカンは翼を収納すると地響きを上げて突進してきた。



それと同時にリッカとミリィが何事かをブツブツと呟き始めた。



これは、呪文の詠唱か?



先頭に立つレブランは、突っ込んでくるライカンを迎え撃つように細身の剣を凪いだ。ライカンはそれを片手で受け止める。



レブランの脇をすり抜けたテオが、大きくジャンプしながら、ライカンの肩口へ剣を振り下ろした。



体を捻って躱そうとするライカンの足元に、イバラの蔓が絡み付き、見事にテオの剣がライカンの肩肉を削ぎ、真っ赤な鮮血を吹き上げた。



「グオオッ!」



苦痛の咆哮を上げるライカン。



右往左往する俺。



いいんじゃないか、これ? 



その瞬間的俺たち5人の体を緑色の光が包む。

なにか体の内側から力が漲ってくる。これはリッカの魔法の力みたいだ。



イバラの蔓をパワーで引きちぎったライカンに、テオとレブランが近接戦闘をしかけている。



合間合間にミリィが攻撃魔法を飛ばし、リッカが追加の補助魔法を発動。



見事に洗練された連携攻撃。これはイケるんじゃないか!? オロオロしながら固唾を飲んで見守る半裸の俺。折角だし、石でも投げておくか。



そう思った矢先、ライカンが投げつけた巨大な戦斧が俺の体を真っ二つに切り裂いた。......らしい。



「えっ?」



俺は何が起きたのか分からず、ただ崩れゆく上半身で滑稽な己の洋梨みたいな下半身を眺めていた。



少し遅れて16年の人生で一度も感じたことのない痛みが俺を襲った。



「んぐおおおっ!?」



口からも大量の血を吹き出しながら、思わず俺は呻き声を上げた。



「大丈夫! あんたは死なない!」



ミリィが一瞬だけこちらを見たみたいだ。



そしてその言葉のとおり、俺の内蔵や細胞やらがゴムの様に伸び、ちぎれた上半身と下半身が接続を始めた。



我が事ながら正視に耐えない気持ち悪さだ。



しばらくして、すっかり元通りになった俺。当然気分は優れない。



「分かった? あんたはもうこの世界ではそう簡単には死ねないわよ。その調子でリッカを守ってね」



丸みを帯びた白い頬に深い緑色の髪を汗で張り付けたミリィが、ほんの少しだけ微笑んだ。



へーえ、笑うと可愛いじゃん。

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