クズとロリ
@yamadasandes
第1話 クズ
俺の今までの人生を、一言で表すならば”カス”という言葉が一番ピッタリなんだろう。
……いや、俺だって好きで自分の人生をカスなんかと表している訳ではない。
別に自嘲癖がある訳ではないし、むしろ自分という人間はそこそこ大切に思っている。でも、どうしようもない事に誰がどう見たってカスみたいな人生なのだから、今更ごまかしたってしょうがないんだ。
小学生の頃は良かった。脚が速いだけで女子にモテるんだからな。自分で言うのもなんだが、俺はその時はそこそこモテた。脚が速かったし、加えて勉強もそこそこできた。周りが俺の事を”神童”だなんてもてはやすから、当時の俺も自分の事が特別なんだろうと自負していたんだが……現実は違った。
中学に入ったあたりからだんだん自分は何をやってもダメだという事に気づき始めた。なにせ、部活ではバスケをやっていたんだが、どれだけ練習しても本当に運動神経のあるやつには勝てなかったし、勉強もそれなりに努力はしてみたんだがからっきし。
高校に入ったあたりで自分は何をやってもダメ、と自分自身と思い込んで何かをやることが億劫になり、何もしないまま怠惰な生活を送った。あの時に、それでも、と自分を信じて何かをやり続けたら今頃もっと違った人生を送っていたのかもしれないな。
まぁ、あの時に自分はダメなヤツだと思い込んで世知辛い現実から逃げていただけなんだが、今更あの時何かをしとけばよかっただなんて思うのは、あまりにも滑稽ではあるんだがな。
結局、俺は嫌な事から逃げていただけなんだ。
そして、あとはご覧の通り、高卒で社会に出て、碌にどこかの企業面接に行くわけでもなく、ダラダラとアルバイトで稼ぎ続け、30を超えるころにはかつての同級生の結婚報告を耳にするように。
結婚報告をきくたびに表では、「結婚だなんていろいろめんどくさいだけだぞ」みたいなスタンスで自分は興味ありませんという感じに振る舞っているが、実は内心クソほどうらやましかったりする。本当は、寂しいんだ。
……見事な転落人生だ。
何物にもなれず、何も持ちえない自分自身にいら立ちを感じ、パチンコと酒とタバコに明け暮れる日々。かといってやりたいこともなく、惰性で日々をこなしているだけ。
出来るだけ面倒くさい事には関わらない、というすこぶるクズ極まりない信条を自信満々に持ち、実際にそれを実行してきた人生。だけど、心の奥底では寂しいと思っている。
それが俺のクソみたいな人生だ。
……あーあ、自分で言っていてなんだが本当にクソみたいだな、俺の人生。
▽▲▽▲
ピ、ピ、とバーコードの音を響かせながら、次々に商品を読み取っていく。目の前でせわしなさそうに杖をさする老人をチラリと見やりながら、手際よくバーコードを読み取っていく。
「お会計、8096円です」
無表情に老人に、数字を伝え、一万円札と小銭をいくつか受け取る。そうしたら余りを渡す。
時計はすでに午後7時を過ぎており、いつもより2時間も長く働いている。
本当は働きたくなんてないんだが、最近は物価が高くなったせいでいつもより長く働かないとまともに飯も食えないんだ。本当に、嫌な世の中だ。もっと物価が安かった10年前くらいに戻りたい。
そんな感じでぶつくさと世の中への不満を心の中で呟きながら、バイトが終わるとすぐに制服から着替え、さっさと店から出る。
そうしたら、近所の下品なまでにネオン煌めくパチンコ屋に金を握りしめながら入っていく。いつもの台に座ったら、金を投入して打っていく。
「お、今日は運がいい」
いつもに比べ、今日は設定がいいらしい。2時間も打っていると、なんと5000円も稼げてしまった。予想外の収入だ。
さっさと交換所で金に換え、運が良かったことに上機嫌になりながら、近所のコンビニで酒を買う。ついでに、タバコも買い、ヤニカススターターセットの完成だ。
近所の公園のベンチに腰掛け、買った酒を開け、一口飲む。
「……うまい」
相変わらず酒というのは最高だ。
そしたら、今度はポケットに入っていたライターでタバコに火をつけ、煙を燻らせる。
こうしている間は、気分が晴れる。
鬱憤とした気持ちも、酒とタバコを摂取している間は、感じなくて済むんだ。この時間だけが、俺の至福の時間である。
……まぁ、現実逃避って言われたらそうなのかも知れないが。
ええい、そんな事を考えたってしょうがない、今日はパチンコが当たったんだ、こういう日は自分へのご褒美だ、飲めるだけ飲んどいたほうがいい。
▽▲▽▲
「おえええええええぇぇぇぇ」
道端に黄色い吐瀉物を吐き出す。
調子にのって飲みすぎた。完全にこれは二日酔いコースだな。
内心、反省しつつもそれでもどうせまた同じことをやらかすんだろうなと思いつつ、気持ち悪い感覚にゲロを吐く。
「うえー、またゲロジジイが出たー!!」
「逃げろー!!!」
なんていう意地悪そうな小学生の声。おいおいクソガキどもめ、今はもう9時だぞ。どうしてこんな時間に出歩いているんだ、と思ったが、すぐさま彼らが塾の帰りであることを理解した。
そうかよ、あいつら塾行ってたのかよ……ああ、クソが。俺よりもずっと偉いじゃねえかよ。
などと一人で傷つきつつ、ゲロを吐き続ける。
▽▲▽▲
意識が朦朧とし、千鳥足で夜の街をふらついてゆく。
一歩一歩進むたびに吐き気を催すが、さっきすでに全部吐き出してしまったので我慢してふらふら歩いてゆく。
たぶん、今の俺クッソ臭いと思う。
だってさっきタバコ吸ったし、それに酒の匂いもやばいし、おまけにゲロの匂い付きだ。いや、草。やばすぎて笑えて来た。
どうしてか、今の自分の状況にツボってしまったので、ケラケラと一人で笑う。
本当に傍から見たら不審者だと思う。けど、自分が不審者ってことを自覚すると、もっと面白くなっていく。
吐き気と面白さというよく分からない二つの物が頭の中でぐちゃぐちゃに混ざり合って、もう意味不明の状況だったが、その時電柱の下に少女がうずくまっているところを発見する。
「ああ?JSだぁー?」
さっきと違い、時計はすでに12時を過ぎており、もはや塾の帰りと言う訳ではなさそうだ。見たところ少女はさっき見た小学生と同じ年ごろに見る。
普段なら、間違いなくめんどくさそうな事案であるため無視するところなのだが、その時は気分が高揚しておかしくなっていたのか、話しかけてみることにした。
「……なに、おじさん」
「だぁー?おじさんだー?座右の銘がめんどくさい事には関わらない、のぴちぴちの30歳だぞー」
「なにその座右の銘、てか丁度今めんどくさい事に関わってると思うんだけど」
ろれつのまわらない俺に、怪訝そうな顔をする少女。
「でー、どーしてこんな時間にJSが出歩いてんだー、危ないだろー」
「……別に、おじさんには関係ないでしょ」
「あー?関係ねーことねーし」
「うわ、めんどくさ」
「あー、そういう事言っちゃいけないんだー。先生にそんな事言っちゃいけないって教えてもらわなかったのかよ」
心配して声をかけただけだったのだが、そろそろウザがらみの領域に入ってくる。完全にJSの眼がゴミを見るそれだ。ちょっとだけ、俺は傷ついてしまった。
しかし、それでもこんな時間に小学生を放っておくことなんてできない、と俺らしからぬ思考で、しょげずに話しかけ続ける。
「帰るとこねーのか?」
「……そう」
「じゃあ、よ。俺の家に来いよ」
「え?」
「帰るとこないんだろ?じゃあ、俺のところに泊めさせてやるって言ってるんだよ」
「……いいの?」
「いいさ、俺は心が広いから──」
と、その時だった。
ぐらりと視界が歪み、だんだん暗くなっていく。
「あ、れ?」
「ちょっと、おじさん!?」
そして、次に地面の冷たい感触がしたかと思ったら、意識が暗転した。
その時は気づかなかったが、完全に飲みすぎにより気絶してしまったらしい。
▽▲▽▲
俺のモットーであるめんどくさい事には関わらない、というのは割と広範囲である。
勿論、勉強だとかスポーツだとかはその”めんどくさい事”に当てはまる。
だけど、その他にも”めんどくさい事”というのに当てはまる事象は存在する。
そのうちの1つが、犯罪、である。
なにせ警察にお縄になってしまったら、高卒フリーターのせいでただでさえでも少ない信用が完全にすっからかんになってしまう。そうなってしまったなら最後。俺はこの社会で生きていくことが出来なくなるだろう。
となると……今の状況というのは、
「完全に犯罪だな」
なんと朝目が覚めたら隣にロリが毛布にくるまってすやすやと寝ていた。
いや、どういう状況だよ。一体、何が合ったらこんな状況になるんだよ。
てか、不味くないか、これ。
警察に詰め寄られたら説明できなくないか?
……よろしくない、とてもよろしくない。
うーん、どうしたらいいんだろうか、今の状況。
「うん、取り合えず二度寝しよう」
きっとこれは、夢だ。
夢に決まっている。
というか夢じゃないと困る。
と言う訳で、俺は再び二度寝することにした。
クズとロリ @yamadasandes
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