第40話みんなのお母さんみたい


 トウルさんやラスロだけではなく、その日はクランのみんなが私の心配をしてくれた。

 おかげで私はあの後、部屋に直行して休むことになってしまったんだよね。


 みんな、心配しすぎじゃない? と思ったけど、自分でも気づいていないだけで心身ともに疲れ切っていたみたい。ベッドに潜り込んだらすぐ眠ってしまった。


 そして今。すでに朝日は昇り、なんとお昼近い時間まで一度も目を覚ましませんでした! ね、寝坊だぁ!!


 慌てて階下へ下りるも、当然そこには誰もおらず。

 そりゃあ、みんなお仕事だよね……当たり前か。


 朝食の準備、出来なかったなぁ。そう思いながら私も軽く何か食べようとキッチンへ向かう。


 あれ? カウンターに何かある……?


 私はそれを見た瞬間、慌ててキッチンを飛び出した。


「カトリーヌさんっ!」

「おや、ルリ。おはよう。もう起きて大丈夫かい?」

「むしろ寝坊ですよぉ! ってそうではなく! あのっ、もしかして朝食の準備をしてくださったんですか!?」


 カウンターにあったのは、一人分の朝食プレート。

 パンとハムサラダにチーズ。それからスープは温めて飲みな、と書かれたカトリーヌさんから私へのメッセージだった。

 だから慌てて走ったってわけ。カトリーヌさんも今日はクランの客室に泊まったって聞いていたから。部屋にいてくれてよかった!


「まぁね。あたしは昨日、ルリより早くに寝ちまってさ。早朝に目が覚めてねぇ。世話になったからせめて朝食を、と思って」

「うぅ、カトリーヌさんだって大変な目に遭ったというのに……あっ、怪我はありませんか!? 大丈夫でしたか!?」

「あはは、忙しない子だね。大丈夫だよ。すでに自分で治療済み。大した怪我でもなかったから」

「でも、怪我はしたんですね……?」


 うっ、泣きそう。でもここで私が泣くのは違うと思ってぐっと我慢した。

 だってカトリーヌさんは巻き込まれただけなのに、怪我までして……。ああ、ダメダメ。泣いちゃう!


「そんな顔をするんじゃないよ。ルリのほうこそ、大丈夫だったかい? すまないねぇ、ちゃんと守ってやれなくて」

「そんなことない! カトリーヌさんのおかげで私は隠れられたんですからね!」


 だというのにカトリーヌさんはどこまでも優しくて、ついに涙がぽろっと零れ落ちた。

 カトリーヌさんはおやおや、と優しく笑ってハンカチで優しく私の涙を拭ってくれる。


 本当にあったかい人だな……。お母さんってこんな感じなんだと思う。


 私がいつまでも落ち込んでたら、余計に困らせちゃうね。過ぎたことよりこれからのことだ。よし。


「治療院もめちゃくちゃにされましたよね……私、お片付けの手伝いに行きますから」

「そんなのいいよ。王家からたんまり慰謝料をもらうからね」

「し、したたか……! でも片付けの人手はいるでしょう? 私、ぜーったいに行きますからね!」

「まったく、頑固な子だね。じゃ、素直に受け取ろうかね。ありがとう、ルリ。助かるよ」

「はいっ!」


 自分が何かせずにはいられないからって押し切っちゃったけど……少しでもお役に立てるように頑張るんだから!


 そういえば、カトリーヌさんはいつまでここにいるんだろう? 疑問に思って聞いてみる。


「治療院があんなだからね。人が住める状態になるまで、ここでお世話になることになったのさ。だからルリもよろしく頼むよ」

「本当ですか? カトリーヌさんがいてくれて嬉しいです」

「そんなに喜んでもらえたら、ずっとここにいたくなるねぇ」

「いてくださいよ、ぜひ! トウルさんにもみんなにも頼んじゃいますよ」

「あははは! 気持ちはありがたいが、患者もいるから。建物が直るまでだよ」

「うぅ、それなら仕方ないですね……」


 気持ち的にはずっといてほしいんだけど、無理は言えないね。

 それに、通える範囲にいるんだから私がもっと会いに行けばいいだけだ。

 それより、今はカトリーヌさんと過ごせることを喜んじゃおう。おもてなしもしちゃうんだから!


 ◇


 カトリーヌさんが滞在するようになってから数日、なんとなくクランのメンバーが規則正しく動くようになった気がする。


「ほら、いつまでダラダラしてるんだい! さっさと仕事に行きな!」

「まだ時間あるっすよぉ」

「そーだ、そーだ!」

「お黙り、ウォン、テッド! 時間があるならその分走るなりトレーニングするなりしな! それとも大量の食器を洗ってくれんのかい?」

「ひぃ、行きます、行きますってー!」


 とまぁこんな感じで、主にウォンさんテッドさんが叱られているんだけど。

 それを見て他の人たちもそそくさと作業を始めたり背筋を伸ばしたりしているんだよね。


 カトリーヌさんはみんなのお母さんだ。ふふっ、頼もしいな。

 ただ一人、カトリーヌさんでさえ手を焼く人物がいる。


 治療院の片付けも終わって、あとは建物の修繕だというので、ようやくいつも通りの仕事をしに行く私にカトリーヌさんが手伝いを申し出てくれた。


 その仕事というのが……。


「ギャスパー……あんたがこんなんじゃ、いくらルリが頑張って片付けてくれても永遠に終わらないよ」

「そうか? ルリくんに片付けを頼む前よりずっと綺麗だけど」

「ギャスパーの基準で考えるんじゃない。まったく……」


 研究室の片付けだった。

 うっ、ちょっと見ない間にまた酷い部屋になってる……! あんなに頑張ったのにっ!!


 打てば響く他の人たちと違い、ギャスパーさんは相変わらずというか無頓着というか……。やっぱり言っても無駄な人っているんだね。

 これ、私が片づけていなかったら廊下や他の部屋にまで物が溢れていたかもしれないなぁ。


「仕方ない。あたしがいる間に徹底的に片づけてやる。薬棚はまかせな!」

「カ、カトリーヌさんっ! 神様に見えますぅ~!」

「ルリも苦労したんだねぇ……ルリは鉱石のほうを頼むよ。そっちはあたしの専門外だから」

「わかりました!」


 扱いに注意しなければならない薬品棚より、鉱石のほうが比較的スムーズに片付けられるから本当に助かるよー!

 さすが治療院の主人だ。薬草やキノコ類も慣れた手つきでぽいぽい片付けてる。


 カトリーヌさんがクランに滞在してくれるのもあと一か月ほどだって聞いてる。

 それまにどこまで綺麗に出来るかな? 


 なんだか片付けばっかりしている気がする。

 でも……治療院の片付けのほうがずっと楽だった!!

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