森夜行路-shin-ya ko-ro- 〜森をネリ 歩くイメージ〜

月樹ノ森 宙灯(ツキノモ-リ ソラト)

第一夜 前書き

『森夜行路』第一夜


――森を ネリ 歩くイメージ


― 前書き ―


=旅路に就くまえに、めぐり逢えた君へ=


“強い風のあとの静けさにこそ、真の声が聴こえてくる。”


これは、そんな森の記憶を辿る物語。


初めに、少しばかり難しきことを綴りたい。




万物流転ばんぶつるてん

― 強者弱者、"星の支配者"たちの想馳行=


 強いものだけが、

いつも生き残るとは限らない。


私達が狭い日常のコミュニティの中で

他者と比べ、束の間の優越感や安心を得る価値即ち、肉体、知識、地位、所持品、財産…


それらを隣人より多く所有してることが、果たしてほんとうに強さなのだろうか?


比べる意味などこれっぽっちもない事に、ただ踊らされているだけじゃないだろうか。


そんな「矮小な優越a dwarf superiority」が、至る所に散見している。


広く世界を分かつ大きな国の指導者たるものに置き換えても、それは重なる。


隣国との違いを理解し、

善意に基づき施政をおこなうのではなく、

如何に近隣国ライバルを出し抜いて自分の国のみが栄え征服し得るか――。


実は独裁国家さながらのせめぎ合いに

指導者たちは振り回され

懐の探り合いに終始して


"人類愛"や"平和"や"献身"などといった

何より大切な事が

等閑なおざりにされることが

多いのではないだろうか。


それが国であれ、小さな村でさえ――

その大小を問はず、

我らはこの連鎖をいまだ断ち切れぬでいる。


互いに信頼を持てぬ大人たちが、

内にも外にも、しがらみに囚はれ、


子どもの頃には、無意識に成し得ていた

「まっすぐな気持ち」さへも、

いつしか諦め、忘れてしまう。


目先の利益や、権益、

虚栄心の確保ばかりにあけくれ、慣らされ

そこから抜け出すことを諦めてしまったからにすぎない。



けだし、たとえ――

余計な物質や、

俗物的な豊かさを削ぎ落とした末に

そこにあらわになる、肉体や精神の底、

あるいは頂。


それが比類なき強靭さを持っていたとしても、

それが本当の「強さ」かと問われれば……


僕は、やっぱり首を横に振る。


なぜなら。

我々は、自分の力だけで、この宇宙を生き抜いているわけじゃないから。


 人知の及ばぬ自然環境に対し、

「自称・強者」の力が、どれほど頼りないものか、


――それは、少しの気候の変化にも顕れる。


酷暑に水分を奪はれ、

寒冷に街は雪に覆はれ、

高山や深海では酸素が薄まり、


ある日、思ひがけぬ物が頭上より落ちてくる。


――ただそれだけのことで、

我らの命は、いとも容易く脅かされる。


天変地異を思へばよい。


頭上を通り過ぐる竜巻、

突如として噴き上がる火山、

予想を遥かに超ゆる直下型地震そして津波。


エトセトラ、エトセトラ…

いずれも、現実に世界中で起きてることだし、ここでいつ起きても、おかしくはない。


私たちは、まるで砂場で遊ぶ子どもに翻弄される蟻の様では無いか。


変わり続けるこの世界で、

地球の環境も宇宙の中で常に変わり行き、


時にはその内部のものを吐き出すほどのクシャミもすれば、


その生命細胞の多くを失うほどの風邪も惹くと言うこと。


我々は唯その様な大なる宇宙的生命に翻弄され、惑わされ生きているに過ぎぬ。


誰一人we are not ALONE.として決して己が一人の力で生きている訳ではないのだ。


それゆえに、

ひとつの国や民族・集団・個人の都合で

他者の日常を踏みにじるような、

浅ましき征服欲など、


唯の思ひ上がりに過ぎぬ。


我らは、ただ偶々、いま此処に、生きている。

数多の偶然が、まるで奇跡のやうに折り重なって。


それだけのこと――

されど、それは、あまりにも尊きこと。


この世界は、

“たかが”人間の都合でどうにかできるほど、

単純ではない。


それを忘れたとき、道は、破滅へと続く。


'されど'


では、どうだろう?


ならば、単なる人にとどまらぬ、すべての種、


名前のつくものつかぬもの全てと等しくーー、


・いかに宇宙を構成する空間や時間に共存出来て、


・自然に敬意を払い美しく同化し溶け込める、


・それを本能で感じ取り、考えず実践し生涯を全うできる。


ーーそのものこそ、

真の強者ではないだろうか。

そのものを我々は動物、

もっと広い意味では生命と呼ぶ。


しかし、人間はその意味の中に放置されると、心の欠落の最も多い生き物で

あると言えるのではないか?


実は生き永らえるに最も危類あやうきたぐいでは?


知らず、自分たちの住処である星を、

環境を破壊して、

破滅へと歩むことを止められぬ種なのである。


この星の他の本当に無垢な生命の存続すらも脅かす者なのだ。


人こそが、この星にとって、

最も未熟な種なのではあるまいかと。


互いの国、民族、隣人、

さらには他の生命・動物・植物…

隣に過ごす別の種にすら…

「勝つことが正しい」…って、

いつから思い込んだんだろう?


本当は、誰かを出し抜いたって、

心も未来も、ちっとも満たされないのに。


それは、周りから遅れをとることを酷く怖れるあまり、冷静さを欠いた自傷行為とも言える。


きっと人はせめぎ合うべき競争相手が

この世界にはいるのだと思えて思いたくて、気が気ではないのだ。


そして多くの場合、「出し抜いたつもり」のその内なる焦りは、


憐れにも周りの競争相手に甚しく露呈され、

不快なものとして敏感に伝わり、

鏡の様な反応となり己に却って来るのだ。


 ならば、人が人としてその様な俗世のしがらみを超越して、あるべき姿の個に成る為には、


欲に呑まれぬ、澄んだ精神と、

執拗で静かな努力を要するのだろう。


それは一朝一夕には成らず。


鍛冶屋が鉄を鍛えるように――

熱し、叩き、冷まし、また叩き、


絶え間なく、己を練り上げていく修練や、

沈思黙考が要る。


そして、肉体と魂が静かに調和し

循環したそのとき、

人は意識せぬままに、

高みへと昇華されてゆく。


“在る”べき自分に、“成る”ために。


それは、おそらく、ごく少数にのみ許される境地であり――


この多くの沈殿したよどみ社会なかから、


わずかに浮かび上がる油脂の玉のように、

そっと、表層に発露してくるのであろう。


そは、生きるべきときに生き、

輝くときに輝き、

そして、静かに、死ぬべくして死ぬ。


その生と死は、時代を越え、

血と意志とを連ねていく。


その可能性即ち永遠なるものである。


だが、それだけでは、

人類のいる間に、

今の汚れた地球は変わらない。


 40数億年の太古の圧倒的に厳しい隕石飛来・地殻変動・大量絶滅の時代を乗り越えて次代に生き残れた者は、


実に儚く小さく平和を好む優しき微生物や哺乳類でした。


↔︎かたやその巨大さ強さそしてドラスティックかつエキセントリックな態を成した

6000種あまりの当時の文明を持たない

地球ほしの支配者」は、


実に、""強者"として、文明を持ってからの

人間の2万倍の時の長さも地球を支配しその栄華の光を放ちました。


ああ、それなのに。


それをも凌駕する地球規模の甚大な環境の

変化に着いて行けず現代までは生き残れず、


遂には絶滅の時を迎えました。


しかしその痕跡は今日の人の世に多大な

ロマンを与え子供達のアイドルと成りました。


ーその者たちの名を"恐竜"と呼びました。


2億年以上もの間地上を支配した彼らですら、大宇宙の法則に抗えはしなかった。


対照的にその微小さ故に

儚く小さく優しき"弱者"は、

地下で実は計り知れない力を蓄える。


微生物は何十億年も地下の塩の塊の中に

閉じ込められた水のたまの中を生き抜くという。


表層に顕在な"強者"が地上で輝きそして天変地異についえるその時もである。


"強者"が記録と記憶に刻まれ永遠となるまで、

厳しい時代を耐え抜いた"弱者"は

間充物質たる普通のものに満たされ守られ

留まり続けて、


いつしか雪解けの様に対流し始め流動し、

循環し遂に次の"強者"になるべくしてーー


地上に現れるのでしょう。


つまり、僕はこう考えるようになった。


「強いものは、輝きを放ちながらその生を全うし、後世に名を残す。


一方で、弱いと思われていたものは、実は“耐える力”に長けていて、


静かに生き残る。」


そして、“耐える者”たちは、

去っていった強者の輝きをその身に記憶しながら、


周囲の意識されない"普通のもの”たちとともにとどまり続け、やがて“何か”を触媒として混ざり合っていく。


そうして世界を浄化し、流動させ、循環させていく。


その働きはまるで、体内にある「間充物質」――

細胞と細胞の隙間を満たす、

あの豊かな基質のようだ。


気づかぬうちに、

全体をなめらかに包み込み、満たしていく。


……その溶け合い調和させる"何か”

の存在に気づいたとき、

僕はひとつの仮説に辿り着いた。


それは、「強者・弱者・普通のもの」という

三つの分類のほかに、

“第四の存在”があるのではないか、

ということ。


それは、

まだどこにもはっきりとは属していない、

未定義で、“特徴あるもの”。


強者でもなく、弱者でもなく、普通でもない。


それぞれの境界を行き来し、自由に、

時に遊ぶように振る舞いながら、

全体の流れを変えていく――


まるで風変わりな、新しい風のような存在。


それこそが、

“ほんとうの変化”を生み出すKEYになるのではないか。


自分が何者かを定めきれず、

身の程もわからず、

強者と弱者のあいだを揺れ動くもの。


それは自然界にも人の中にも存在している。


実はそのような存在こそが最も稀有であり、

強者と弱者、双方の特徴を内包し、


括りを越えて自由に流動する“永遠の救い”となるのではないか。


流動するものは、やがて循環を生み、

それが世界をつなぎ直す力になるのだと。


この考えをさらに深めると、

「強者」「弱者」「普通のもの」という三者によって満たされた世界――

その“間充物質”の中を、特徴ある"何か"=“第四の存在”が自由に行き来すると。


それは、決して完成されることのない、

変化し続ける永遠の運動。


もしかすると、それこそが平和を伝え続ける力なのではないか。


そうして循環に組み込まれ流動し始めた

“普通のもの”こそが世界の大部分を占め、

実はすべてを支えていくのではないか。


それは確かに、未熟な流れかもしれない。


されど、未熟なればこそ、

学び、悔い、改めることができる。


ならば我らは、

森に学ばねばならぬ。

虫に、獣に、鳥に、樹々に、風に、雨に、地球に、星々に――


我らが生きている、

この大いなる「ほし」にこそ。


森に迷うことは、

つまり己に還ることであり、


夜を行くとは、

自らの影と向き合ふこと。


光ばかりを追い続けてきた私たちが、

今こそ、闇に目を凝らし、

そこにある

ほんとうの声を聴かねばならぬ時なのだ。


この物語は、

森と、ひとりの少年の記憶のかけらたちが

紡ぎ出すもの。


それは誰かの記憶でもあり、

もしかすると、

あなたの、かつての記憶かもしれない。


あるいは、

未来からやってきた、

もうひとつのあなたの声かもしれぬ。


いずれにせよ、

この物語に登場する事象は、

すべて、なにかしらの象徴である。


森へ足を踏み入れるということ。

本来声なき存在の者たちと触れ合うこと。

自分の中にある、小さな弱さや、哀しみと向き合うこと。


それぞれ意味と願ひとが込められてゐる。


けれど、それらすべて解かねば読めぬようなものではありません。


君が君のままで、

この森をネリと練り歩いてくれたなら、

物語は、きっと君だけの形で語りかけてくれるだろう。


では、そろそろ時が来た。


音を消した足音で、

森の入口まで、案内しよう。


そう、After all, ひとつ、不要we are not alone.なものはない。


――これこそが、大自然、

すなわち宇宙の法則なのだと、僕は思う。


さあ、今のあなたは――

強者でしょうか。

それとも、弱者でしょうか。


あるいは、ただそのあいだを漂い、

どちらにも属さず、


己の輪郭すら曖昧にしたまま、生きている存在でしょうか。


忘れないでほしい。


“意識されないもの”が、

世界を満たし、支え、流れを生み出していることを。


だからこそ、問います。


あなたは、

あなた自身の行く末において

循環ウェルビーイングするもの”

に進化たり得るだろうか。


名を持たずとも、

誰にも知られずとも、

永遠に巡り、世界のかたちを変えていく――

そんな存在になり得るだろうか。


心して進まれよ。

ここは、

時と記憶の層が、幾重にも折り重なる場所。


世界がまだ、いまより少しだけ若かった頃、

森が夢を見ていた、その続きを――


共に、歩いてゆこう。



絶滅を知り命脈を辿る森

Forest to follow the thread of life to know the extinction


ふつう人間は入れない、世界樹の森。


どこの森にもつながるけれど、どこへも戻れない。


戻る必要の無い森。


世界樹の森は、世界中の森。


この物語のままに、生を全うし成仏召された父へー





僕の物語が少しでもあなたの心の琴線に触れたなら…

★や♥、コメントで意思表示くださると嬉しいです。

☞ 第一話はこちらから →


森夜行路 第ニ夜 0.〜メモリアル〜 へ


(読了後、ぜひ続きへどうぞ)

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