大富豪

あに

第1話 爺ちゃんの遺言


 『大富豪』『大貧民』呼び方は関係なく、トランプのゲームの一つだ。

 3が一番弱くて2が一番強い、ジョーカーは最強カード。

 

 場にカードがなくなると勝ちのゲーム。

 そして勝った順に大富豪、富豪、平民、大貧民となり、次のゲームにはカード交換が行われ大貧民に一度でもなると這い上がるのが難しいゲーム。


「そして俺のスキルは『大貧民』か」


 門真千里カドマセンリ、俺の名前、親は普通のサラリーマンで母さんは専業主婦の普通の家庭。

 爺ちゃんがカードマニアで色んなカードを集めている蒐集家だ。

 婆ちゃんが亡くなってからはそれもめっきり無くなった。


 

 俺の誕生日。

 15歳になったのでダンジョンに入れる年になる。


 俺は背も低く虐められていたが、このスキルを得れば、虐められるのも終わりだと思っていた。


 『大貧民』


 何故かモノリスに触るともらえるスキルで俺のスキルは『大貧民』。

 わけもわからず神のゲームとやらに参加させられる。


『ほぉ、今回のプレイヤーはお前か』

 太陽神アポロン、

『可愛いわね』

 美の女神アフロディーテ、

『まぁ、気楽に行こうではないか』

 絶対神ゼウス。


 最初は普通のゲームだと思っていた。


 『神のゲーム』

 内容は単純にカードゲームの『大富豪』

 大富豪と大貧民は1番強いカードと1番弱いカードを2枚交換する。


 何故かって?


 そう言うルールだからだ。


 俺は毎年この『神のゲーム』とやらに嫌でも参加させられ、連敗記録を更新し続けるしか無く、15年も負け続けスキルは『大貧民』の為、『なし』の扱いで、1番弱いスライムダンジョンですら攻略出来ない。


 そして30歳を迎えた。


 髪も切る金が勿体無いからボサボサ頭、工事現場で働く俺は缶コーヒーを飲みながらため息を吐く。

「おいおい、無能なセンリちゃんがなに黄昏てんだよ?」

「やめとけ、先輩だぞ?」

「いいんだよ。なんのスキルも持たないんだから無能で」

 コイツらも一緒でダンジョン攻略を諦めた人間だ、が、俺より有用なスキル。俺をセンリちゃんと馬鹿にしてるコイツですら『身体強化』で俺より高い給料を貰ってる。


「先輩、気にしないでくださいね」

「……ありがとう」

 後輩と呼べるのはこの優しい星野優馬ホシノユウマと言う若くて茶髪だが真面目な子だけだ。


 また今年も『神のゲーム』が近づいてきている。

 そんな中、俺を息子じゃないと捨てた親から電話があり爺ちゃんが亡くなったらしい。

 遺言で蒐集家の爺ちゃんが集めたカードは全て俺に託すと言っていたのでそれを取りに来いとの事だった。


 別に取りにいかなくても、親が金になるカードは売った後だろう。

 だが、爺ちゃんは俺に唯一優しかった。

 カードゲームの面白さを教えてくれたのも爺ちゃんだ。

 今じゃカードゲームは大嫌いだがな。

 そんなわけで取りに行く。

 カードケースに入ったカードはやはり価値のないカードばかりで親はそれを渡すとそそくさと帰って行った。


 手紙と一緒にカードが4枚包んであり、


『センリの幸運を祈る』


 とパッと見て、一緒に包まれているものは7のフォーカード。

 俺には必要ないカードだな。


 俺はそれをテーブルの上に置く。


“ゴーン……ゴーン……”

 さて今年も始まるか……神のゲームが。


 目を閉じて待つと、

『良かった、まだ生きてたのね!』

 と言うのはアフロディーテ。

『今年は負けぬからのう』

 去年負けたゼウス。

『あはは、まぁ、気楽に行こうよ?な?センリ』

 『大富豪』のアポロン。

 喋る気にもなれない。

 勝手にシャッフルされるカードで俺にきた強いカードは一番強いジョーカーとスペードの2が一枚。


 そして、クラブとハートの3が2枚アポロンから渡されると、

「ほら、早くよこせよ」

 とジョーカーとスペードの2を奪い去っていく。


「ほんとカード運はいいのになぁ」

「だな、『大貧民』じゃから意味ないがな」

「人間が神のゲームに参加する事自体光栄な事よ?」

 とカードを切りながら話をする3人。

 俺もちまちまカードを切るがすぐに手が出せなくなる。

「Jのスリーカードかよ!こんなの聞いてないぞ!」

「ふふ、肝心なのはポーカーフェイスでいることよ?アポロン?」

 とアフロディーテが6を出す。

 

 俺の番だ。


 手が震える。


 カードはアポロンが1枚、ゼウスが2枚、アフロディーテが1枚、俺12枚だ。

 ジョーカーはもう場に出ている。

 

「は、8切り」

 8のカードでその場をリセットする。

『ほう、久しぶりに声を聞いたな』

『そんな声だったかしら?もっと楽しめばいいのに』

『まぁいい、次で終わりだ』


 アポロンは俺に勝つのが当たり前の顔だ。

 まだ11枚、爺ちゃんが俺に遺してくれたカードと一緒の……


「『革命』……」

『……』

『え?』

『うそよ』


 7のフォーカード、全てがひっくり返る。

 強さの順番が変わる『革命』だ!


4のスリーカード、5を出してそれ以上はいないからまだ俺のターン。6のツーカード、

「初めて勝つよ、爺ちゃん」

 3のカードを置くと俺の手札は無くなった。


「お前ら……いままでよくもこんなゲームに付き合わせてくれたな?」

 涙が出てくる。

『こ、これは』

『え?』

『ちょっと待ってよ!』

 『神のゲーム』には不正は出来ない。

 

 なぜならルールだからだ。


 アポロンが上がり、ゼウスが一枚出して、アフロディーテが上がる。

 ゼウスが『大貧民』に落ちた。


『待て待て、も、もう一度』

“ルールです”

 どこからとも無く声が聞こえる。

「そう、ルールだ」

『あぁ、1番ダメな人が』

『父様、負けてはいけないはず』

『我は……負けたのか』


 15年間負け続けた『神のゲーム』ただの紙っきれに左右される人生だった。


 俺は『大富豪』になったんだ!


 爺ちゃん!ありがとう!


『見事だ、センリよ』

『おめでとう』

『あーぁ、これで『神のゲーム』も終わりか』


 そう、人間が神に一回でも勝てればこのゲームは終わり。

 

 なぜならルールだから。

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