第十話 怨念の鬼女と虚構の薙刀

夜が深まり始めた頃、ラルファ村では不穏な噂が囁かれ始めていた。


「……またひとり、消えたらしい」


「VRの仮想空間に囚われて……もう、戻ってこないって」


村人の一人が震える声で語る。


居住地の各所で、突然意識を失って消える住人が増えていた。しかも、その直前には必ず──


「長い薙刀を携えた、鬼女が現れるのだ」


その姿を見た者は口々に言う。

顔を覆う紅の面、乱れた黒髪、そして……


「『ようこそ、わたくしの夢へ』って……笑って……」


事態を重く見た王国は、ついに動いた。


「冒険者ケンタ殿。そなたのパーティに、公式の討伐任務を与える」


王の言葉に、ケンタは無言で頷いた。

バンピーノ、タツ、フェアリム、セレスティア──仲間たちはすでに決意を固めていた。


「俺が暴れて解決してやる!」

タツが拳を鳴らす。


「うふふ〜怖いのかなぁ? でもフェアリム、ちゃんと守るもんねぇ〜」

ふわふわした口調の精霊フェアリムも、その目には静かな光が宿っていた。


今回、調査の中心となったのは、村の旧礼拝堂だった。


「ここが……封印が緩んで、虚構と現実の境界が揺らいでいる場所か」

大魔族・デモスが姿を現す。

彼はバンピーノの旧友であり、封印術に長けた賢者でもあった。


「デモス、来てくれてありがたい」


「恩義があるからな。だが相手は“虚念の鬼女・ツキヨミ”。かの者は魂を『虚構の夢』に引きずり込み、心象世界で生気を吸い取る存在……並大抵の魔法では対処できん」


そのときだった。

鈍い風音と共に、空間が歪んだ。


「来たわね」

セレスティアが光を構える。


仮面の鬼女が、薄闇から姿を現す。

その薙刀がひと振りされると──


「ひゃっ!? な、なんだか頭がふわふわぁ〜」

フェアリムの羽が乱れ、仲間たちがぐらついた。


気づけば、全員がVR仮想空間のような“夢の風景”に囚われていた。


「これは……俺の記憶? 過去の俺が……!」

タツがかつての孤児時代の自分を見つめる。


「これは幻術。だが、感情を揺さぶられると魂が……!」

バンピーノが焦る中、


「ふぇぇ〜、みんなぁ〜、起きて〜!」

フェアリムが、微光の精霊粉を放つ。

優しい風が仲間たちの幻覚を吹き払っていく。


「私……鬼女さん、かわいそうなの……なんか、独りぽっちの夢にいるみたいでぇ〜」


そのとき、鬼女ツキヨミが微かに呻いた。


「……夢を、終わらせて」


「いいよ。終わらせようね……だから、バイバイだよ〜」


フェアリムの風と、デモスの封印術が融合し、空間を包む魔方陣が起動。


「──夢結界・終止符(しゅうしふ)!」


淡い光の中で、鬼女の姿が霧のように消えていった。


「封印完了。もう、現世には干渉できん」


デモスが息を吐く。


「よくやったな、フェアリム」

ケンタが笑い、フェアリムが嬉しそうに飛び跳ねた。


「えへへ〜♪ なんか、頑張っちゃった〜」


バンピーノは遠くを見つめた。


「……怨念すら、誰かの孤独から生まれる。だとすれば、俺たちにできることは、戦うだけじゃない」


──こうして、また一つの危機が終わった。

だがその夜、王都の魔導塔で、新たな異変の兆しが静かに広がっていた──

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なんちゃら異世界転生 ~全員チートで何が悪い~ ポチョムキン卿 @shizukichi

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