七月

おまじない

 マレは、雷が大きらいです。

 空の遠くで幽かに雷の音が聞こえただけで、大きな体をこれ以上できないくらい小さくして、ブルブル震えだします。


 そんなとき、駅員さんは「くわばら くわばら」と言って、桑の木の葉っぱをマレの頭の上にのせました。

「桑の木に雷は落ちないんだよ、マレ。ここは桑の木駅なんだ。それでも心配で怖いのなら、おまじないをしてあげよう。『くわばら、くわばら』と唱えて、桑の葉っぱを頭に乗せると、マレは桑の木になる。カミナリさまが雲の上から見下ろしたって、桑の木が見えるだけだ。マレがどこにいるのかわからない。だから怖がらなくても、だいじょうぶだ」


 すると、マレは頭の上の葉っぱの下に大きな体を隠そうとして、余計にまた身を縮めるのです。そうして葉っぱの下に全身が隠れて、カミナリさまからは桑の木しか見えないはずだと信じ込むと、やっと落ち着くのでした。

 駅員さんはそんなマレのようすを見ると、愛おしくてたまらなくなります。


 桑の葉っぱのおまじないは、駅員さんの創作でした。

「くわばら、くわばら」という言葉が、どうして雷除けになったかについては諸説あります。「桑の木には雷が落ちない」という説も実際にありました。それをマレのためにアレンジしたのです。


 実の所、桑の木だって雷が落ちるときには落ちるのです。

 駅の先代の桑の木は雷に打たれて枯れたと、ポストさんが言っていました。でも、それは駅員さんが赴任してくるずっと前のことなので、当然、マレはそのことを知りません。駅員さんも、マレが怯えるようなことを、わざわざ言ったりはしません。


 だから、雷が鳴ると駅員さんは大真面目でおまじない唱え、マレはそのおまじないを信じきって大きな体を葉っぱの下に隠そうとするのでした。



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