二月
枝打ち
2月の真ん中の公休日は風もなく穏やかな日だったので、駅員さんは桑の木の枝打ちをすることにしました。
手際よく古い枝を切り落としている間、マレは「小鳥の落とし物の木」を不安そうに見上げたまま、くーんくーんとなき続けていました。いつものことながら、どんどん枝が切り払われていく桑の木が心配でならないのです。
「だいじょうぶだよ、マレ。春になったら『小鳥の落とし物の木』にたくさん花が咲いて、たくさん実がなるように、2月のうちにちゃんと手入れをして準備をしておくんだ。春が来れば枝がぐんぐんのびて、マレの好きな葉っぱだって、たくさん生えてくるよ」
駅員さんは、毎年マレに同じことを繰り返し言い聞かせていました。
それでも、やっぱり、マレは春になって桑の木に葉っぱが生えてくるのを見るまでは、安心できませんでした。
枝打ちが済んで落とした枝を
森の家に住むおばあさんに、この春、二人目の孫がやってきます。おばあさんには、明斗くんという十三歳の孫がいましたが、その明斗くんに妹ができるのです。
駅員さんはマフラーとマレのセーターのお礼もかねて、おばあさんと孫の赤ちゃんのために桑の木のスプーンを作ってプレゼントすることにしたのです。
おばあさんには、スープやおかゆのための大きなスプーン。赤ちゃんには、離乳食のための小さなスプーン。
とはいっても、駅員さんは自分の手作りを押し付けるつもりは、さらさらありません。
冬の夜に、おばあさんやこれからやってくる赤ちゃんのことを考えながら、木のスプーンを作ることが何より楽しいのです。木製品の好きなおばあさんはともかく、赤ちゃんが木のスプーンの口当たりを気に入ってくれるとは限りません。それで使ってもらえなくても仕方のないことです。
夕飯が終わると、さっそく切り出した枝を削り始めました。
マレは、ストーブの前で眠たげな目で駅員さんの木工細工を見ていましたが、いつの間にか眠ってしまいました。
駅員さんが作ってくれたりっぱな犬小屋があるにもかかわらず、マレは夜はたいてい駅員さんの部屋ですごしています。それは、今みたいな冬の夜に限ったことではありませんでした。寂しがりやのマレは、いつだって駅員さんのそばにいたいのです。駅員さんが見えるところにいるだけで、マレは幸せでした。それは駅員さんも同じでした。
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