ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実

山下ともこ

第一章:森の民の記憶

かつて、森の奥深くに“魔女の家”と呼ばれた家がありました。


今では朽ち果て、石と灰だけが残るその跡地には、

春になると白い小さな花がひっそりと咲くのでした。



魔女の家があったとされる森の近くには小さな村があり、

村の中央には少年と少女の象が立っていました。


象のプレートには「村の英雄・ヘンゼルとグレーテル」と書かれていました。



村人たちは言います。


「昔、あの森の奥には人喰いの魔女がいたんだ。 

 子どもをさらい、太らせ、最後には食べてしまう恐ろしい女だったそうだ。

 けれど、ヘンゼルとグレーテルが魔女を倒し、村に平和を取り戻してくれたんだ。

 ヘンゼルとグレーテルは村の英雄なんだよ。」



けれど、ヘンゼルとグレーテルの子孫達は、また違う話をするのです。

「本当は魔女なんていなかったの」

「子どもを太らせたのは…」

「あの白い花はね…」




村人達の話が本当なのか、

ヘンゼルとグレーテルの子孫の話が本当なのか、

真実を知る者は、もういません。



森を吹き抜ける風は、時折村まで、甘く優しい香りを運んで来ます。


まるで誰かが、「真実を探して…」と囁いているかのように──。




続く~第二章へ~




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