第18話 信念の刃、夢を裂く宣誓(デクラレーション)

リングの中央に立つ。

汗の匂い、観客のざわめき、足元の薄いマット。

どれもが現実で、逃げ場はなかった。


(……ここで、絶対優勝する)


唇を噛んだ。

体の奥から、震えるような声が心に響く。


(この大会を……必ず優勝して終わらせる)


今まではただ勝ちたいと思っていた。

けど、久保の涙を見て分かった。


──俺は、何も分かっていなかった。


ドリームブレイカー。

その名前が恥ずかしかった。

未熟な自分が、形だけ立派な名前を与えた技。


(でも……今なら分かる)


技の意味は、力だけじゃない。

そこに込める「覚悟」だ。


(相手の夢を砕く……努力を砕く……俺はそれをやる)


情けも遠慮もいらない。

「叩き潰す。」

それが、格闘技の世界で拳を交わすということ。


(これまで俺は、俺自身の完成にしか目を向けてなかった)


拳をゆっくり握る。


「スピゴ」


背後から館長の声。


「お前、目が変わったな」


「……そうっすか」


「いい目だ」


館長が短く息を吐き、リングサイドのモニターを示した。


「相手のことを話す。聞け」


画面に、細身の少年の姿が映る。

髪を短く刈り上げ、無表情でシャドーを繰り返している。


「名取陸。中三だ。空手出身で、いわゆる“距離の選手”だな」


「距離……?」


「間合いを徹底して維持する。自分の間合いに相手を入れず、逆に踏み込んできたら必ず一発を返す。厄介だぞ」


モニターでは、名取が淡々とフックを打つ。

その動きに迷いはなかった。


「戦績はジュニア大会で15戦12勝。2KO。フィジカルはそこまででもないが、精度がある」


「……なるほど」


スピゴはモニターから視線を外す。


(相手は“守り”じゃなく、“間合い”で戦う)


自分の未熟なステップでは、簡単に入れない。


(でも……だからこそ、倒したい)


足元に視線を落とす。


(これまで俺は、自分が強くなるためだけに戦ってた)


拳を握る。


(でも違う。相手の夢を理解し、それを砕く。──それが、俺が選んだ“ドリームブレイカー”だ)


頭の奥で、熱いものが燃えた。


(もう……恥ずかしいとは思わない)


館長がスピゴの肩を叩く。


「行け」


「……はい」


リングに上がると、名取が一礼して立っていた。

その目は空っぽに近い。

だが、そこには揺るぎない信念の膜があった。


(こいつも、何かを背負ってる)


観客のざわめきが遠ざかっていく。

視界の中心に、名取だけがいた。


(この試合で……俺は証明する)


俺のドリームブレイカーは、もうただの飾りじゃない。

相手を知り、夢を尊重し、その上で砕く。

それが、俺の信念だ。


(全部……壊してやる)


「両選手、中央へ!」


レフェリーが手を上げる。


名取の視線が、一瞬だけスピゴの目にぶつかった。


(……始まる)


ゴングが鳴った。

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