漆黒ノ刃《シェイド・ブレイド》──地上最強を継ぐ者

まなぶくん

第1話 漆黒ノ刃《シェイド・ブレイド》─地上最強を継ぐ者

テレビで格闘技を見ていると思う。


なんであんな遅いパンチをみんなよけれないんだろう。


「おいスピゴ!また授業中に寝てただろ!」

先生の怒号が耳に響く。でも、こいつおれより弱いしな……としか思わない。


そんなことを、ずっと思っていた。


俺の名はスピゴ。平凡な中学二年生……と、世間は言う。だが、俺にとってこの日常は退屈の極み。雑魚どもが群れ、弱者が強者を装うこの牢獄のような世界。


だから、今日は違う道を通ってみた。いつもと違う風景。いつもと違う風。何かが、変わる気がした。


──強い相手に、出会いたい。


そして、それは現れた。


路地裏のコンクリの壁に、剥がれかけた看板が打ち付けられていた。夕日に照らされて不気味に光るその文字を、俺は見上げる。


『修羅ノ檻 -Cage of Ragnarok-』


「……なに、これ」


胸の奥が、じりっと熱くなった。心臓が、何かを訴えている。ざわつく。うるさい。黙れ。……いや、違う。


これが……“ときめき”?


そうだ。初めてだ、こんな感情は。こいつは只者じゃない。俺を呼んでいる。いや、導いているのか?


「……ふっ。俺をここに導くとは、さすが“世界”だな」


無意識に呟いていた。脳内で誰かが拍手を送っている。たぶん、未来の俺だ。


格闘技教室『修羅ノ檻』の扉を開けると、汗と血のにおいが鼻をついた。だが、それすらも、俺には“戦場の薫り”に感じられた。


「誰だお前。見学か?」

無愛想なトレーナーが声をかけてきた。


「いや、違う。お前らの中に、俺と拳で語り合える奴がいるか確認しに来ただけだ」


「……は?」


冷たい沈黙。だが、俺は笑っていた。ふっ、こいつらにはわからんのだ。俺の格、次元が違う。


道場の隅にいた選手がスパーリングしていた。スピードもパワーもあるが、俺に言わせれば──


「動きが遅い。目で追える時点で雑魚」


「おいお前、誰に向かって言ってんだ?」


選手の一人が顔をしかめてこっちに来る。が、俺は目を逸らさない。そう、俺の目は《千眼穿通〈ミリオンサイト・スルー〉》。動きのすべてを見通す目だ。


「俺はスピゴ。地上最強の継承者。そして、まだ封印された本気を出していないだけの存在だ」


「こいつ……頭大丈夫か?」


笑う奴がいた。だがそれでいい。今はまだ、俺の力を見誤っていていい。いずれ、奴らはひれ伏すことになる。俺が本気を出すその日を──震えて待て。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る