経験履歴

.六条河原おにびんびn

第1話

―なんですか、この空間は。


 私は訊ねました。部屋いっぱいに虚ろな目をした人々が座っています。彼等の頭部は額からドーム型のプラスチックのようなもので覆われ、脳味噌を露出させているのが透けて見えました。


「図書館ですよ」


 司書のロボットが言いました。


―本がありませんね?


「はい。こちらは、彼等が生前読んでいたテキストを読める図書館です。人生の疑似体験もできますが、どうなさいますか。体験なさる場合はお手続きがございます」


―いいえ、結構です。彼等は、死んでいるんですか。


「はい。社会的には死亡しています。臓器はありませんよ。あくまで個人が識別できる形での保存をしております」


 ロボットが先を歩くため、私もついつい追ってしまった。


「彼の人生なんかはなかなか壮絶ですよ。刺激が足りないときにいかがです。ただ、最期が圧搾機なので最期までの視聴はあまりおすすめしません。そういうコメントが寄せられていますのでご参考までに」


―圧搾機、ですか。


「復元するのが大変でした。ご遺族の方のご意向です。こちらの彼女はなかなか平穏な日々を過ごしていたようですよ。最期が何故か、突然の薬物過剰摂取ですから、感情移入ができないとご視聴の時間がムダになってしまうかも知れません。そういうコメントがありますね」


―そっちの子は。


「アイドルを目指していた方ですね。オーディションに受かった15で都会に飛び出して、アイドル活動まっしぐらというところで18のときにストーカーに殺害されています。彼女の人生に於けるアイドル論がなかなか人気のようですよ。ご視聴されますか」


―いいや、いいよ。人には色々な人生があるんだね。自分の人生で精一杯だ。疲れそうだよ。


<2021.6.28>

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経験履歴 .六条河原おにびんびn @vivid-onibi

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