その翡翠き彷徨い【第24話 深き亡羊】
七海ポルカ
第1話
「姫様、そんなに眉間に皺を寄せないで下さいませ。折角の可愛いお姿が台無しですわよ」
サンゴールの王女ミルグレンはその日、真新しいドレスを着て、髪もお気に入りのリボンで結い上げた大変可愛らしい姿をしていた。
なのにも関わらず彼女は今、現在大変不機嫌である。
……というのもこんなに着飾っても今日に限って見てほしい人が皆、外出してしまっているからだ。
「お母様のウソツキ」
ぷー、と頬をこれ以上無いくらいに膨らませてミルグレンは呟いた。
「今日こそは、絶対絶対時間取ってくれるって言ったのに」
「仕方ありませんわ。急に大切な会議が入ってしまったのですもの。一ヶ月後には大礼祭がございますのよ。各方面に女王陛下自ら赴いて成さねばならないことが多いのです」
「うそつきうそつき」
「本来ならばこういう時こそ、姫様が陛下のことを慮らなければならないのではありませんか」
侍女はそう言ったが、七歳の王女はそっぽを向いている。
「メリクさまもいない……」
彼女は完全にふてくされて机に突っ伏していた。
「メリク様は魔術学院にご用があって、そのままオーシェ家にお立ち寄りになるそうです。お泊まりになられるかもしれませんから、仕方ありませんわ。さ、いつまでも臍を曲げておいでにならないで」
「やだもん! つまんないもん! 私もオーシェの家に行く!」
「まあ……姫様そんな我が儘をおっしゃらないで」
「メリク様はお母様の子供と同じなんでしょ! 何でいっつもオーシェ家がメリク様を好きにするの⁉」
「好きにするだなんてそんな……いいですか姫様メリク様はオズワルト・オーシェ卿の後見あってこそ……」
「あーっ! もううるさいのうるさいうるさい! 何でレインだけこんな部屋でじっとしてなきゃいけないのよ! みんな大大大大ダイッ嫌い! もー出て行ってよー!」
バン! と鼻先に扉を閉められて、侍女頭は頭を押さえた。
「はああ……姫様の癇癪には毎回困り果てますわ……」
外にいた侍女達も頷きながら、一斉に深い溜め息をついたのだった。
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