図書館転生~10万3000冊の魔道書を有する巨大図書館に転生してしまったので、魔法を極めてみることにします。あらゆる知識を手に入れたので、大賢者と呼ばれています
みんと
第1話 書籍化(俺が)
俺の名は
過酷な現代社会を生きる――いわゆる社畜という奴だった。
もうどのくらい家に帰っていないかわからない。
風呂にも入ってないから、身体も臭くなってきている。
飯だって、ろくなもんを食っていない。
毎食、会社の近くの牛丼チェーンで済ませている。
「はぁ……はやく仕事終わらせて、今月出た新刊読みたいんだけどなぁ……」
俺はカフェインたっぷり増強されたエナジードリンク(本日5本目)を流し込みながら、未だ帰れぬ自宅へと思いをはせる。
俺の部屋には、まだシュリンクも外していない文庫本が、山のように積まれていた。
まあ、本好きの人間なら誰だって、家に10冊や20冊の積読はあるだろう。
だけど、俺はもう半年以上、満足に本を読めていない。
それが俺にとってどれだけ辛いことなのか、話しても、他人はあまりわかってくれない。
俺は昔から、いわゆる本の虫だった。
本を読むことがなによりも好きだった。
ゲームをしたり、酒を飲んだりすることよりも、自分一人で本を静かによむ――それこそが俺にとって至福の喜びだったのだ。
読むジャンルも、多岐にわたる。
小説はもちろん大好きだった。
推理小説もいろいろ読んだし、純文学は自分でも書いてみたことがある。
自己啓発本にはまった時期もあった。
難しい学術書や、哲学書に頭を悩ませるのも好きだ。
時間がたっぷりあった大学のときは、50巻ほどもある長編シリーズを読破したりもしたもんだ。
だけど、就職してからはまったく満足に本を読めていない。
本当に辛い。
まあ、それでも他の人よりは、多少は読んではいる。
最近じゃあ、まったく本を読まないって人も少なくないそうだしな。
俺には考えられないことだけど。
最近俺がよく読んでいるのは、ネットで無料で読める、いわゆるweb小説ってやつだ。
異世界系のweb小説が多くて、どれも気軽に読めるのがいい。
今は昔と違って、まとまった時間がとれないから、落ち着いて本を読むのが難しい。
だけどその点、web小説は、隙間の時間で、1話だけ読んだりできるから、今の俺にはぴったりだった。
あまり気合いを入れて読まなくても、通勤時間などでさらっと読めてしまう。
それこそがweb小説の魅力だ。
だけどまあ、web小説ばかりってのも、俺にとっては物足りない。
もっとこう、腰を落ち着けて、分厚い本をコーヒーを飲みながら、ゆっくりと楽しんだりもしたい。
俺は普通に本を読むだけじゃもはや満足しなかった。
とにかく俺は、満たされない毎日を送っていた。
空いた時間でぱらぱらっと本をめくってみたりするものの、飢餓感は増すばかりだった。
「はぁ……仕事、やめたいなぁ……」
◇
10連勤を終え、ようやく家に帰りつくも、本を読む気力は残っていない。
俺はスーツのまま、ベッドに倒れこんだ。
身体は汗でべたべたなままだが、シャワーを浴びる気にもなれない。
最後に飯を食ったのは、コンビニで売ってる栄養ゼリーだ。
腹がぐぅと鳴る。
しかし、起き上がってなにか食べる気にもなれやしない。
とりあえずこのまま一寝入りしてから、起きてからなにか考えよう。
えーっと、起きたらまずシャワーを浴びて、飯を食って、うん、それからゆっくりコーヒーを入れて本を読もう。
きっと素敵な休日になるぞ。
だがしかし、俺のその夢は叶わない――。
俺はそのまま、死んだように深い眠りについた。
そして二度と、目が覚めることはなかった――。
◇
「あれ……? ここはどこだ……? 俺は眠ったはずだよな? じゃあ、夢か?」
気が付くと、そこは真っ白な空間だった。
真っ白な空間に、スーツ姿の俺だけがぽつりと立っている。
「
「天界……?」
名前を呼ばれて、振り向くと、そこにはこの世のものとは思えないほど美しい女性がいた。
女性は神々しく光を放っており、直視できないほどまぶしい。
地面まで届く金髪に、日本人離れした整った顔――だけど、欧米人とも思えないような、不思議な顔だ。
地球上のどの人種にも当てはまらないような、そんな顔。
見たことのないほどの巨乳に、くびれ。
そいつを一言で形容するなら、女神という言葉がまさにふさわしいだろう。
「もしかして……女神……?」
「あら、ご名答。そうです。私はこの世界の女神アーデルハイト。そしてここは天界ヴァルッハラ」
「天国、みたいなもんか? ていうことは……俺は死んだのか?」
「ですです。スコヤさん、残念ですが、あなたは死んでしまいました。原因は過労死ですね……ほんと、ブラック企業って酷いですよね。同情します。私も天界主様にコキ使われてるんですよ……」
「天界にも上司がいるのか……」
「私の役目は、死んでしまったスコヤさんを案内することなんです。とにかく、あなたは死んでしまい、天界へと召喚されました。ここまで大丈夫ですか?」
いやしかし、過労死か……。
まあ、あれだけ身体に無理させていたのだから、仕方ないな。
「はい……。しかし……まじか……俺、まだあの本読んでないのに……」
「こんなときまで本のことですか……。本当に、本がお好きなんですね」
「それはもう、死んでしまったことに唯一の未練があるなら、それはもっと本を読みたかったというくらいですかね」
「それは珍しい……普通はもっと、せめて童貞を捨てたかった~とか、せめて一度くらいおっぱいを触ってみたかった~と言われる方が多いのですけどね……」
「そうなんですか……。いや、まあ俺だってできれば童貞は捨てたかったですけど……! 恋人の一人くらいは欲しかったですよ! それはもちろん……! だけど、俺にはそれ以上に本が大事なんです。本さえあれば、孤独だって、他になにも必要なかった。本はすべてを与えてくれるんです」
「じゃあ、私のおっぱいは揉まなくていいですか?」
俺は思わず、女神のその豊満な胸に目線をやってしまう。
「え……も、揉ませてくれるんですか……!?」
「いえ、揉ませはしませんけど」
「なんだ……。お、俺を弄ばないでくださいよ……!」
「あはは、すみません。スコヤさんはからかい甲斐のある方ですね」
「女神にまで童貞いじりされるとか、ここは天国じゃなくて地獄か?」
よく、飲み会で上司に、俺が童貞であることをいじられた。
あれはマジで最悪だ。
今って令和だぞ? 普通にセクハラだ。
「まあ、おふざけはこのくらいにして……。本題に入りましょうか」
「本題?」
「私ね。あまりにもかわいそうだと思うんですよ……」
「俺のことがですか?」
「ええ、あなたは現世でとってもよく頑張りました。誰よりも真面目に生きて、誰よりも努力して……それを私は天界から見ていたんです」
「女神様……」
そんなふうに認めてもらったのは、初めてのことだった。
たしかに俺は真面目に生きてきた。
真面目すぎて、損もした。
だけど生き方を変えるくらいなら、損をしたままでもいいと思った。
昔母親に言われたっけ、「あんたは真面目だけが取り柄だから、せめて真面目に生きなさい。そしたらいつか、必ず報われるから」って。
俺はその言葉を信じて、とにかく、真面目にひたむきに努力した。
そんな俺を、周囲は無能だとか、真面目すぎてつまらない男だとか、そんなふうに言った。
その挙句が、過労死……。
「報われませんよね……。その結果が過労死だなんて、受け入れがたいと思います。それに、さっきもおっしゃいましたけど、もっと本を読みたかった――それは素敵な夢だと思います。なので、特別に……天界から転生をオファーしたいと思います」
「転生…………?」
「はい、異世界転生です」
「ま、マジで……? それってあの、よくweb小説とかである、あの異世界転生?」
「あの異世界転生です」
「っしゃあああああああああああ!!!! キタコレ!!!!」
「そ、そこまで喜んでもらえるとは……、こちらとしても用意した甲斐があります」
「ありがとうございます。女神様……!」
「いえいえ、これはすべて今までのあなたの行いがあったからこそです。あなたはもう一度人生をやり直すにふさわしい人間だと、我々が判断したのです。それで……どういった異世界転生にしましょうか?」
「どういった……?」
「ええ、一口に異世界転生といっても、いろいろな形がありますから。なにか、要望をきくことにしているんです。例えば、どんな土地がいいかとか、どんな能力がいいかとか、どんな容姿がいいかとか……。あまり多くのわがままはきくことはできないんですけどね……。なにか一つだけ、願望があれば言ってください。きっとその通りになるように、こちらで取り計らいますから」
「それならもちろん――本がいっぱい読めるようにしてください……!!!!」
俺が望むことは、もはやそれだけだった。
「あはは……どこまでもぶれませんね。そこが素敵です。わかりました。いいでしょう。たくさんの本、ですね」
「お願いします」
「はい、では……。目を瞑ってください。今からさっそく、転生の儀式を行います」
「え。もうですか?」
「ええ、名残惜しいですが……、次の転生者さんが待ってますので」
「そうですか……。じゃあ、お願いします」
「はい」
俺は目を瞑った。
そしてたくさんの本を想像した――。
◇
――――そしたら本になってた、俺が。
「なんでだよ!!!!」
正確に言うと、どうやら俺の肉体は図書館らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます