第14話
これは、ごく普通の家庭に産まれ、両親と姉から、たくさんの愛情を注がれ、育っていく――はずだった、少女の話。
その少女は、末っ子として生まれ、7歳上に一人、姉がいた。彼女が住んでいた家のある場所は、小さな集落だった。そんな中で、家族からも、近隣の住民たちからも可愛がられた少女。その日常に順応し始めた…とある日のこと。少女の姉に、貴族からの縁談が舞い込んでくる。婚約すれば、きっと家族の将来は安泰であろうというものだった。
だが、そこには一つ問題があった。その貴族というのが、かなり悪名高い貴族だったのだ。その美貌に一目惚れしたと言うが、上の娘はまだ12歳だった。当然両親は反対し、この縁談を断った。
………そして、憤慨した貴族が、一家の処刑を始めるのは、その数日後であった。
貴族に反抗した両親は処刑され、魔法の才能があり、復讐をされる可能性があると貴族に判断された姉も、処刑された。
魔法の才能も、武器を扱う才能もない、その末の娘ただ一人だけが、処刑を免れた。「処刑するための費用がもったいない」と。
この処刑は当然、真っ当なものではなかった。だから残った末の娘に、貴族はこの罪をなすり付けた。
「あの一家を殺したのは末の娘である」
と、そんな噂がどこからか流れ……気付けば、彼女の居場所は集落のどこにも、なくなっていた。仲良くしてくれていたはずの、近隣の住民も、次第に彼女から離れていく。
誰一人として、「違う」など声を上げる者はいなかった。
──人の都合で、人は簡単に死んでしまう。
彼女は、そう理解した。
家族を失い、居場所を失い、それから数週間後のこと。
この集落にやってきた一人の魔女が、彼女を拾った。
慈愛の魔女
人はその魔女をそう呼んでいる。
■
慈愛の魔女は彼女に衣食住を提供した。と言っても、単純に彼女と彼女の家族が住んでいた家に住み直しただけだった。
それでも、一人より、孤独よりはマシだった。
ある日、慈愛の魔女は彼女に魔法を教え始めた。魔導書をいくつか読ませたり、基本的な魔力の扱い方を教え…。
いつしか、彼女の才能が開花する。
恐ろしく速く、それでいて驚くほどに精確な魔力操作。無詠唱で魔法陣を構築し、放つ技術。
魔法を教え、たった1年でそれほどまでの才能が開花したのだ。それは、慈愛の魔女の実力を軽く飛び越えていた。
6歳にして、慈愛の魔女を超越していたのだ。
それから、さらに2年の月日が過ぎた。彼女はその間も毎日欠かさずに努力と研鑽を重ねていた。
そして……そんな、ある日のことだった。
彼女は慈愛の魔女がギルドの依頼で外出した隙に、貴族の邸宅へと向かった。怒りに沈んだわけでもない、悲しみに暮れているわけでもない、単なる無。それが彼女の感情だった。
──人の都合で、人は簡単に死んでしまう。
家族は貴族の都合で殺された。
だから
自分の都合で、貴族とこの集落を壊して殺して、焼き払っても構わない。
貴族がそうしたから、大人が、そうしたから。
貴族の邸宅に着くと、そこには門番が二人立っていた。
足を凍らせて動けなくして、肺を凍らせた後、顔と腹を氷のナイフでぐちゃぐちゃになるまで刺し続けた。
屋敷に入り、出会った従者は四肢と首と胴体に解体され、火のついた暖炉の中へ放り込まれた。
そして、貴族が3年の間に娶った妻の寝室へ向かうと、持参したロープで口と手足を縛りつけた。
そして、縛った貴族の妻と子を連れ、貴族の部屋に向かった。貴族の足を凍らせ、動きを封じる。
そしてそのまま、貴族の目の前で、縄を咥え泣き叫ぶ妻の顔を殴り、腹を刺し、内臓を引きずり出して、貴族の前に放り投げた。
1歳になろうかと言う貴族の子は、「俺と息子は助けてくれ」と懇願する貴族の前で、肺と心臓を突き刺した。
そして、彼女は屋敷に火を付ける。外に立っていた門番も屋敷の中に運んだ。そして、今度は集落の番だ。
彼女は魔法の構築を始める。無駄を徹底的に排して、効率的に淡々と大量殺戮と大量破壊を成す魔法を──。
「──ソウルリープ」
小さな集落に住む、命ある住民は、慈愛の魔女を除き、彼女だけとなった。
そして今度は、集落に火を放った。ただ一つ、彼女の家だけは、防御魔法で火の手から守り抜いて。
依頼を終え、戻ってきた慈愛の魔女は、その光景に戦慄する。
いまだ煙が上がる、灰の山になった集落。かつての雰囲気などどこにもなく、彼女の家を除き、そこには灰色の世界があった。
そしてその中心に立つ、一人の少女は、慈愛の魔女を見るや否や、明るい表情を浮かべ、慈愛の魔女の方へと駆け寄ってくる。
慈愛の魔女は彼女に、事態の説明を要求した。すると、彼女はこう返した。
「人は、誰かの都合で簡単に死んじゃうって、分かったからね。今度は、私の都合で死んでほしかっただけ」
人を殺した罪悪感など、彼女にはまるでなかった。どころか、とびきりの笑顔を浮かべ、慈愛の魔女の帰りにあいさつを送った。
「おかえりなさい!」
と。
――――――――
作者's つぶやき:言いたいことは色々あると思います。ですがこれだけは言わせてほしい。こういうものを書いてみたかったんです。いつか。
だから叶ってよかったですよ。
それにしてもこの子はぶっ飛んでますね…一体どこの何リィさんなのやら。
――――――――
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