第5話

 修復が終了した魔法陣は、続いて解析の作業へと移る。この解析の作業が地味に大変らしくて、精霊が魔力を込めながら一つ一つ魔法陣を分解していく必要があるんだけど…魔力を込める必要があって魔法が発動しないように常に魔法を抑制しながら解析をするから、精霊にとっては結構疲れる作業なのだとか。

 特に使役されている精霊は主の魔力に依存しているから、疲れやすいみたいだね。レベルスは結構魔力あるし大丈夫そうだけど。


「…解析が終わりました」


 レベルスの声を発していた精霊が、解析の間に元の精霊の声に戻っていた。レベルスは…寝たのかな?まあ向こうのことはわからないから何とも言えないけどね〜。


「お疲れ様、ありがとね」

「安全は確認できませんが、転移魔法を発動できます」

「…レン、どうする?」

「私はここに残るわ」

「分かった。それじゃあ、私だけお願い」

「かしこまりました。ご武運を」


 精霊が魔法を行使する。魔力探知でもほとんど見えないが、薄くぼんやりとした魔法陣が私を淡い光へ包んでいく事が分かった。

 魔眼とか持ってたら、精霊の魔法も鮮明に見えるんだろうけどなぁ~。


 光が弾け、目に入ってきた光景は…左右にいくつもの牢屋がある廊下だった。部屋中に充満している悪臭は、牢屋に入っている推定人間の死体からだろう。


「うへ~…こりゃ酷い」


 牢屋の一室を覗いてみる。ここにはまだ誰も投獄されていないようで、すっからかんで比較的綺麗だった。

 他の牢屋の環境は、劣悪としか言えなかった。壁に打ち付けられた杭から鎖が伸び、死体の手首へと繋がれている。

 死体は完全に腐りきっていて、肉が爛れていたり、なんか地面に溶けた液体みたいなのが付着していたりもしている。


「…生きている人間はいない…かな?」



 牢屋のある部屋から続く道を歩いていくと、半開きの扉が目に入る。

 隙間から中を覗いてみると、真ん中に大きな長机があって、そこに真っ白な肌の足が寝転がっている。


「おじゃましま~す」


 扉を押すと、ギィ、と軋む音を立てて開く。

 長机に安置されているのは人間のようだった。長くて、茶色の髪の、かわいい女の子だった。

 …一つ、他と人間と違う所は、腕や足に縫い痕があり、体が継ぎ接ぎになっていることだろう。


「服くらい着せてあげなよ~…」


 周囲を確認すると、棚にカゴを見つける。カゴの中には、長い布が一枚入っていた。


「…え、これだけ?」


 まあ、何も着せないよりは…マシ…なのかな。


 長机に横たわる女の子に布を巻こうと触れると、その体温は異様なほどに冷たかった。左胸に手を当ててみても、鼓動は全く感じられない。


「てことは呼吸も…まあしてないか」


 ひとまず、彼女の体を起こして、肩から下を覆い隠すように布を巻く。膝が隠れるくらいまでの長さに布を切り取って、それを紐代わりに腰に回して結んだ。


「…まあ、これでいい…かな?」


 ――と、そんな時。

 開くはずの無い、閉ざされた瞼が開いた。瞳孔の開き切った瞳が、私を覗く。呆気に取られていると、彼女はむくりと起き上がり、手を眺めて閉じたり開いたりを繰り返している。

 長机から降りた。ぺた、と素足で着地すると、私に近寄ってきた。行動は幼い感じでちょっとかわいいね、体は結構長身でスラッとしてるけど。


「あなたは、だれ」


 抑揚も感情もない、だけど冷たくは感じない不思議な声で、彼女はそう疑問を口にする。


「私はリリィだよ、よろしくね~」


 そう言って差し出した手を、柔らかくて冷たい手が包み込んだ。


「君の名前は?」


 そう聞くと、こてん、と首を傾げ「わからない」と伝えてくれる。…生前の記憶はないのかな。


「じゃあ…うーん……アザレア」

「アザレア」

「そう、花の名前。いいでしょ?」

「………わからない」

「そっかぁ…」




 そういうわけで、アザレア…アズちゃんとしばらく行動を共にすることに。いいなぁ、身長高いの。高いところに届いて便利そうだよね〜。


 アズちゃんのいた部屋を出て、右の方に通路がずうっと続いている。


「…誰か、いる」

「え、ほんと?」


 アズちゃんが身構え、臨戦態勢をとる。


「…あれ、人?」


 地下だし明かりもないしでよく見えないけど…。シルエットは人形…かも?うっすらとだけど、距離を詰めてくるのもわかる。


 ある程度距離を詰めてくると、激しい足音を立てながら一気に走り寄ってくる。


「…ん〜…あれは…」

「…」

「あー大丈夫大丈夫、アズちゃん起きたばっかだし私がやるよ」


 突撃しようとするアズちゃんを制止させ、杖を構える。


「フレアシュート」


 私の頭上に、紅く燃えるように煌めく魔法陣が描かれる。炎の矢が15本放たれ、迫る影にめがけ飛翔していく。

 そして…影がきらりと光ったその瞬間、眩い炎と爆風が狭い廊下に広がっていく。


「アズちゃん、しっかり掴まっててよ〜?」

「……」


 アズちゃんが何も言わず、私の背後に立つ。姿勢を少し低くして、アズちゃんの頭が私の首くらいの高さに隠れた。


「エレメンタリーディフェンド」


 私とアズちゃんの周囲を、薄い防御魔法の層が包む。

 爆風が防御魔法にぶつかり、少し遅れてやってきた爆炎と共に、防御魔法の境界を滑るように通過する。


「…大丈夫?」

「うん」

「なら、先に進もっか」


――――――――

作者's つぶやき:この先どうなることやら。え〜相変わらずパソコンが機嫌直してくれないのでスマホで執筆しています。最近こっちばっかり更新しているのはちょいとばかしインスピレーションが多いからです。

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