第3話

「っ…!?」


 受付の人が、手渡したギルドカードを見て、固まった。それは、3年前まで使っていた前の――虐殺の魔女、としてのギルドカードだった。


「す、すぐに手続します!」


 …なんか、受付の子すごく怯えてない?手震えてるし…。


「大丈夫?」

「は、はいっ…!」


 受付の人にとんでもなく怯えられはしたけど、ひとまず依頼の受諾は通ったみたい。よかったよかった。

 Cランクって、意外とこういう時に枷になったりするんだね~、いや~盲点盲点。


 そろそろBランクにいってもいいかなぁ、なんて考えながら道を歩いていると、正面から深めのフードを被った人とぶつかってしまう。


「おっ…とと、ごめんね」


 特に怪我をしてる様子はなく、こちらに突っかかってくるようなわけでもなかったから、軽く謝ってその場を後にした。

 そのタイミングで、私の手に紙が握らされている事に気付く。…手になんか握ったら、普通すぐに気付きそうなものだけどなぁ…。


「『次はお前だ』…か」


 私、一体何をされちゃうんだろうね~?気になって仕方がないや。


 王都アラクトから少し離れて、見渡す限り一面の平原へ。ここは魔獣の平原なんて呼ばれてる場所で、隣接している魔獣の森林と合わせて、トリスミアの中でも屈指の魔獣大量発生スポットとなっている。

 魔獣が多い、という事は、それだけ魔鋼石や薬草なんかも多いわけで…よく採取依頼が出されている場所でもある。


「…見つけた」


 そうして見上げる先には、40頭くらいのワイバーンの群れが上空を飛び回っている。

 亜空収納から杖を取り出し、魔法を構築する。ワイバーンの鱗は熱に弱いから、炎魔法が一番効くんだよね~。


「フレイムバレッツ」


 杖の先に描かれた魔法陣から、無数の炎の矢が放たれる。それらは真っ直ぐにワイバーンの群れへと向かい、十数体のワイバーンの翼や胴体を貫いた。

 魔法が命中して、命を落としたワイバーンが地上へと落下してくる。それとほぼ同タイミングで、上空に残っていたワイバーンの群れが一斉に降下を始める。


「ホワイトサイス」


 亜空収納へ杖を収納し、魔法陣から生成された白い大鎌へと武器を切り替える。足元に構築した飛行魔法の魔法陣へ魔力を送ると、私の体が地面からふわっと浮き上がる。

 緩やかに加速を始め、ワイバーンの群れへ。


「よ…っと」


 すれ違い様に鎌を振り上げ、降下するワイバーンの一頭を縦に切り裂いた。


「………」


 生きている魔獣には、必ず体のどこかに魔石がある。個体によって誤差があるけど、種としてはおおよそ同じ位置にある。例えば、ワイバーンなら体の丁度中心部の位置にある。

 だけど、さっきのワイバーンからは魔石を砕いた手応えがしなかった。もしかして…。


「…この子たち…もう死んでる?」


 腐敗臭もしなかったし、体がボロボロになっていたりもしない。相当保存状況のいいワイバーンの死体ってことだね。捌いたら食べられたりしないかなぁ。

 …けど、不思議。アンデッドは基本的に洞窟の中でしか生きられないはずなのに。


「…死霊術…ってところかな?」


 幽霊なんて恐ろしいね~。



「これで最後…っと」


 結果、このワイバーンの群れは全てアンデッド。生きている個体は一頭もいなかった。


「…うーん」


 生きているにしても、死んでいるにしても、依頼が出されるって事は不特定多数に危害を加えたことには間違いないわけだし…問題は、それが故意かそうじゃないか、だよね~。


「…およ?」


 私の目の前に魔法陣が展開され、そこに魔力が集中していく。転移の魔法陣だ。


「――久しぶり、リリィちゃん」


 そんな声と共に魔法陣から姿を現したのは、レンだった。


「レン!」


 レンの胸に目掛けて飛び込むと、彼女は私をそっと受け止めてくれる。

 レン――もとい、レンファール。長寿族エルフの一人で、平均寿命が2,000年程度の彼女たちの種族において、なんと5000年前から生きてるすごく長生き。見た目は1500歳くらいの時に不老の薬を飲んで以降老いていないんだとか。


 レベルスが言ってた、古代魔法が使えるほぼ唯一の人材。

 長寿族エルフは古代魔術を扱える人は多いんだけど、基本は森の外に出る事はなく、外との接触もほとんど断っているから、今のところ古代魔術を扱える魔法師ギルド所属の魔法使いはレンしかいないってわけだね~。


「元気にしてた?」

「もちろん、この通りだよ~」


 そう言ってレンの前でくるりと一回転してみせる。


「ならよかった。ところで…そのワイバーンの死体の山は?」

「あぁ、これ?依頼でちょっと…いる?」

「気持ちは嬉しいけど、いらないわ」

「まあ、そうだよね~」

「…こんな所で立ち話もなんだし、場所を変えましょうか」

「そだねぇ」


 そう言ってレンが転移魔法を展開する。私はその魔法の範囲内の地面に乗り、レンと一緒に光に包まれた。

 眩い光が徐々に収まっていくと、そこはレンが営んでいる孤児院の一室だった。

 向かい合わせのソファと、その間に置かれているローテーブルの上には紅茶の入ったティーカップが二つ。

 レンが入り口から奥のソファ、ティーカップが置かれている位置に座る。私がその対面に座ると、レンは真剣な顔で言葉を紡ぐ。


「…さて、少しお話ししましょうか」


――――――――

作者's つぶやき:古代魔術…まあ古い魔術ですよね。この世界での古代魔術の扱いは「高威力だけど扱いも発動も難しい」という感じです。あと燃費も悪いですね。古代魔術を1発と今の魔術20発がほぼ同じくらいです。まあ発動方法とか諸々あるので一概に一致とは言えませんが。

――――――――

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