第4話 忍者、再びダンジョンに潜る
志信は、探索者だという柄蓮に誘われ、自分も探索者としてダンジョンに潜ることになった。
「何で俺はまた、ダンジョンで採掘なんてしてるんだろ……?」
早速ダンジョンに潜ることになった志信だったが、柄蓮の会社から貸し出された新機体で、採掘作業に勤しんでいた。
『テストも無しに実戦投入はできないから。それに、探索者と言っても、最前線に潜るだけが探索者じゃない』
「その理屈はわかってるんだ……」
新機体、という胸が踊る装備で採掘しているのが、何かやだなぁ、というだけで。
志信に貸し出された機体は、柄蓮の所属する会社のザッシュという機体だ。シュッとしたシルエットの、灰色を基調にした鎧武者を思わせる近接戦闘用試作マギマシン。今はバイトでも使っていたハンマーを装備し、壁に打ち込んでいる。背中には崩した壁を回収するための背負子……コンテナを装備している。
志信自身もマギマシンに合わせ、脊髄や頭部を保護するパイロットスーツに身を包んでいた。
「まぁ、稼げるなら文句ないけど。借金返せるし」
『そういえば、なんでそんなに借金が? 志信、まだ未成年』
近くで魔物の警戒をしつつ、採掘された魔石をコンテナに積み込む作業をしていた柄蓮のマギマシン・パーンから通信が入った。
「あれは、正確には父さんのなんだ……」
『お父さん?』
「家の抱える借金でさ……父さんは失踪。だから、俺が借金返して、家を取り戻したいんだよね」
古い日本家屋で、代々の当主や父が色々と弄り回した忍者屋敷。
父が育てていた義兄弟たちと、騒がしくも楽しく過ごした思い出の居場所。今は借金返済の
ために取り押さえられてしまったが。
『借金……いくら?』
「3億くらい……」
取り戻そうとすると、都内のそれなりな面積の日本家屋であったので、未成年の志信には現実感のない数字となっていた。
つい先日、数百万ほど増えてしまったが……まぁ、元々の数字と比べると端金に思えるのが不思議である。
『さん……!? 早く親御さんと絶縁すべき』
志信は苦笑した。他人からはそう見えるよなと思う。
しかし譲れはしない。けど、柄蓮からは純粋な優しさを感じた。
『柄蓮さん、事情も知らずに、そういう事を言うのは……』
この場にはいない、紗夜から、柄蓮を嗜めるような通信が入った。
紗夜は現在、指揮車併用のトレーラーで待機しつつ、2人のオペレートを担当していた。柄蓮の会社では、マギマシンを3台も用意できなかったためである。
整備がされている浅層のため、現在は通信が地上の紗夜の元まで届くが、深層になれば中継アンテナを使用することになる。
オペレーターはそういった設置作業やマップ作成などを担当する……のだが、紗夜は機械類の操作が苦手なために、現在はトレーラーハウスを彷彿とさせる指揮車内装の机で、カメラ映像やAIが取り込んでいくマップ情報を見ながら、マップ内の詳細情報や、志信や柄蓮が感じた生の情報を墨で紙に書き記していた。
「いえ、良いんですよ。紗夜様。外から見たらそうでしょうし、俺も他人ならそう思いますし」
『志信……』
「柄蓮、俺はさ、元々孤児なんだ。俺以外にも、兄弟がいたんだけど、そいつらもみんなそう。俺が1番下って感じ」
柄蓮と連動する、パーンの動きがびくっと止まった。
『……そう』
「みんなが居る家が好きでさ、俺以外は普通のサラリーマンになったり、みんな独立しちゃったけど、兄弟たちが帰ってくる居場所を、取っときたかったんだよね……」
『ごめんなさい。大した事情も知らずに……』
空気が悪くなり、志信も思わず手を止めてしまった。
「あー、良いって! 俺が好きでやってるだけだから」
志信は悪くなった空気を変えたかった志信は、露骨に話題転換することにした。
「っと、それより、あとどれくらい鉱石いるかな。武器に必要なんだよね?」
『……新規試作分の他に、ザッシュの武器素材分が必要。実家の会社だと、武器まで手が回らない』
志信の思惑に、柄蓮も気づいたので、辛気くさい話はおしまいだ。
今、採掘をしている理由、それは武器調達のためだった。
柄蓮と契約を交わしたことで、志信は新機体のパイロットをさせて貰っている。
しかし、試作機であるザッシュはまだ武装らしい武装がない。一般的に販売されている汎用的な剣を現在腰にマウントしているが、あくまでサブウェポンである。
「素材があればできるんでしょ? 十分じゃない?」
『素材があっても無理。うちは魔法系を得意としてるから』
あぁ、と思うところがあり、柄蓮の機体を見る。魔杖を腰にマウントした柄蓮のパーンは、陰陽術……一般的な認識で言うところの魔術専用機らしい。骨格部分はザッシュと似ている気がしたが、外装は魔力を全身に循環させるために陰陽術をベースとした装飾をされており、装飾を追加するためか、腰部に前垂れのような装甲や、腕部に着物の袖を彷彿とされる柔軟素材の装甲が存在する。
その点を鑑みれば、魔力を使った武器と、近接武器制作はノウハウが全く違いそうだ。
「そっか、考えてみれば当たり前か……」
『どこかの鍛治師に持ち込みが現実的』
採掘の手を止めず、そんなことを話あっていると、繋ぎっぱなしのボイスチャットから、紗夜の声が届く。
『そうなんですか? なら、槌屋へ持ち込んではどうでしょう』
「槌屋さんですか。懐かしいなぁ。まだ刀を打ってるんですかね」
槌屋、とは志信の家と紗夜の家で刀を打っていた鍛冶屋だ。そちらも家同様、借金のかたに取り上げられたが、幾つか名刀があったなぁ、と志信は懐かしむ。
「今はダンジョン需要が大きいそうですから、今はマシン用のものを主力で仕事をしているはずですよ」
「ああ、そうだったんで……」
言いかけ、志信は口を閉じる。ザッシュがハンマーを地面に刺し、腰にマウントされた剣に手をかけた。
ザッシュの収音マイクが音を拾っているのだ。重量のある何かが移動してくる足音。
「何かきた!」
『はい?』
通信先の紗夜が小首を傾げた。
僅かに遅れ、柄蓮が反応し、パーンが警戒しつつ杖を構えた。
『……マギマシン?』
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