第24話 増える虫ケラ
ご主人から近いうちにここを離れる話を聞いた翌日。俺は偵察の為に再び北へ。
町から離れてから羽を生やし、今は空の上だ。
しばらく行くとそこそこ大きな町が眼下に見える。前世で暮らしていた町だ。
上から眺めてなんとなく違和感を感じたが、降りてあそこに行きたいとは思えなかった。もう俺には無関係の町だ。
そこから更に北へ。名前も知らない隣国の町に着いた……んだけど?
「アウオーーーン!!」
遠吠えをあげてみるが一切反応がない。町には人っ子一人いない。
少しだけ荒れた後はある。扉が開きっぱなしだったり、中の家具が倒れていたりはする。だけど荒らされたと言うより、慌てて倒してしまったという感じかな?
一体何がどうなってんの?町の人間が丸々消えるなんてある?
何かがおかしい。だが、ここであの吸血鬼が待ち構えているならむしろ好都合。さっさと殺してしまいたい。
そう思って遠吠えも上げてみたんだが反応なし。
まさか既に拠点に攻めてきてるとか?でも、非戦闘員を全員連れて行くなんて無いか。
とにかくここにいても仕方ないので戻ろう。帰りはしっかり確認しながらだな。
再び空へ。しっかり確認しながら戻っていくが、人の姿も痕跡も見つけられない。
帰る途中で再びあの町の上を通る。あぁここも人がいないのか。もう懐かしい町ではないので、特に感傷は無かった。
かなり広い範囲で人間が消えた。ミステリーだな。
だが知らん。興味も無い。
俺は二人の魔法使いを守る。今はそれ以外の考えは捨てるべきだ。
ナルスの町に戻るまで、どこにも人の姿は見つからなかった。
「オン!」
「次郎、昼間にいるのは珍しいな。お前も運動しておけよ」
もうたっぷりしてきたよ。
ご主人がどうするか分からないが、今しばらくはオルヒから離れないことにした。
それから2日後、町に向かって無数の敵が迫っていると知らせが届いた。
◇◆◇◆◇
ついに敵が来た。相手は隣国の領主軍だという。
敵はまだ目視出来ないが、1万とか2万とか情報が錯綜している。
軍団は戦うようだ。彼らは国軍ではないが、相手はヒトモドキを使っている。この軍団は教会の救世軍なので、それらは仇敵って事なんだろう。
軍団の戦闘員は600くらいか?町の戦力と併せても1000は行かないだろう。
まともにぶつかればすり潰される数の差があるんだが、それでも逃げないのが教国のやり方ってことか。
嫌な予感がビンビンする。逃げて欲しいがそうも行かないんだろう、今回は俺も出し惜しみ無しで行くと決めている。
あの吸血鬼が関わっているはずだ。安易に攻撃して逃がすんじゃなかった、仲間を集められる前に確実に殺す必要がある。
「次郎、今回は厳しい戦いになりそうだ。お前、戦えるんだろう?」
「オン!」
勿論だぜご主人、今回は俺も戦う。
「よし!存分に働け。そしてもしもの時は俺ではなくオルヒ殿を助けろ」
「オウ?」
「もしもの時にな。ツユの事も助けてやってくれ。俺は強いから大丈夫だ!」
「ウォン!」
ご主人、俺も強いんだぜ。本気で戦ったらもう一緒には居られないかもしれない。だが俺はここで、今まで生きた恩を返す。
「犬、存分に働きなさい」
「オフ!」
そういやお前は戦うの?ご主人だけを守る感じなのかな?まあ前線は俺に任せとけ!最初に一発かまして終わりかもしれないけどなぁ!
出し惜しみ無しってのはそういう事だ。ヒトモドキと人間がゾロゾロ進軍している所に、最大威力の必殺ビームをブチ込むぜ。
それで敵軍は終わり、まともに食えば吸血鬼共も蒸発するさ。流石に感知されるだろうけど、ヒトモドキ達の速度では回避は不可能なはず。
俺はやるぜ、俺はやるぜ、鼻を鳴らして先に行こうとしたらオルヒに声をかけられた。
「ジロウくん、今はそっちに行っちゃ駄目だよ。今回は大きな戦いになるからね、無理しないで逃げるんだよ。きっとみんな帰って来るからね……」
不安そうにしながらも俺に逃げろと言う。
そう言うなオルヒ、大丈夫だ、あんちゃんが守ってやる。お前の出る幕こそ無いぜ。
頭を擦り付けて匂いを嗅いでおいた。ヘヘッ、俺は犬だし仕方ねぇよなぁ!
「オオオォォォォン!」
景気づけに遠吠え一発!みんな気合入れろよ!効くのかどうかは知らん!
「オフ!」
戦場に向けて走り出した。俺がデカイ一発を上げてやるからよ、むしろ俺にビビるなよ?
走り出して5分もしない内に敵の影が見えた。数は分からん、ただ凄い数だ。軽く万を超えていそうな大軍。
俺のせいか?その前にツユもやってたんだったな。いや関係ないか、敵を倒すために全力を尽くすのは当たり前のことだ。集められるだけの数を持ってきたんだろう。
馬鹿め、全て燃やしてやる。ヒトモドキも人間も関係無い、敵は殺す。それだけだ。
見晴しのいい小さな丘に登って敵を見据えた。四肢を踏ん張って特大ビームの発射準備OK!
「アアァァァァァ!」
周辺の魔素を掻き集め、体内の魔素を操って力を一点に留める。一撃で終わらせてやるぜ!喰らえ!滅びのバーストストリ――
ギュドン!
発射寸前に彼方から何かが飛んでくる!
「ギャイン!」
俺の体を貫通した!?馬鹿な!どんな敵にも破られた事がない俺の体を!
「見つけたぞ駄犬!あの日の屈辱!一時も忘れたことは無い!!」
あの時の吸血鬼!?それにしては何だこの力は!
「こいつが言っていたやつか。なるほど強そうだ。だが我らの敵ではないな」
更にもう一匹。そういえば吸血鬼は増える虫けらなんだっけか。
「ガルアァァァァ!!」
敵は強い。だから何だ、やるって決めてんだよ。
こいつらを始末して敵の軍団にデカイのをブチ込んでみせる。
大丈夫だぜオルヒ、あんちゃんがみんなぶっとばしてやるからよ。
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