3
黒づくめの連中の連携は、分身のように巧みで、孫六はその場を動けずにいる。
(忍びの類か)
孫六の居た時代では、伊賀者や甲賀者といった忍び武者と呼ばれる者たちがいたが、この黒づくめの連中も、同類のように思える。
黒づくめの連中は、孫六に休む暇を与えない。次々と攻撃を仕掛け、孫六はその攻撃を受けたり、あるいはいなすなどしてはいるが、とても反撃に出る糸口を見つけられない。
じりじり、と押されているのが手に取るようにわかる。このままでは、いずれ、孫六の命を危なくさせるであろうことは間違いない。
「マゴロクさん!!」
突風の如く現れたゲインズであった。ゲインズはすでに馬上のまま刀を抜いていた。そして黒づくめの連中の中に飛び込んだ。
咄嗟のことで黒づくめの連中は飛びのいて避ける。ゲインズはひらり、と降りたち、向かってくる黒づくめの連中を払いつつ、孫六のそばに駆け寄った。
「助かった。すまぬな」
「レベリウスから聞きました。とにかくここを切り抜けましょう」
頷く孫六。黒づくめの連中の攻勢はまだやまない。だが、ゲインズの助太刀によって少し負担が軽くなった孫六は、襲い掛かる黒づくめの連中の一人を袈裟懸けに斬り捨てた。
どう、と音を立てて倒れるのを見たゲインズは、負けじと一人の胴を払って斬る。
「レベリウスのとはえらい違いだ」
思わずつぶやいた。
「感想は後にしてもらおうか」
「そ、そうですね」
ところが黒づくめの連中は斬られた二人を見捨てて、散らすように逃げていった。
孫六は斬り捨てた一人の顔をのぞこうとして顔を覆っている黒い布をはぎ取った。
「見覚えはありますか」
ゲインズの問いに、孫六は頭をふる。
「このような面白いものが届いてな」
例の手形の手紙をゲインズに見せると、ゲインズの顔は血の色を失って白くなっていた。
「な、なぜ?」
「考えられるのは、道場主殿の手助けしたことで、仲間と思われたようだ」
「よく平然としておられますね」
「平然となどしておるものかよ。いつどこからやってくるか分からぬ連中だぞ」
そうですよね、とゲインズの顔色は少し戻った。
それから少ししてようやく、カンタレスの治安を担っている衛兵たちがやってきた。
「なにがあった?」
衛兵のうちの一人が二人に尋問する。ゲインズが事情を説明すると、衛兵たちは訝しむ顔をして、
「詰所の方で話を聞かせてもらおう」
といった。
「私たちは襲われたのですよ?」
「であろうとも、だ。どういうことかじっくりと聞かねばならない」
ゲインズが衛兵に詰め寄るのへ、
「まあよいではないか。話を尽くせばじきに解放されるであろう。それに、トーハン・アーデンのゆかりの者を粗略には扱うまいよ」
孫六が、そうわざとらしく言うと、衛兵は途端に態度を翻して、
「失礼いたしました。後は、我々にお任せいただけますか」
といった。孫六は満足そうにうなずき、
「では、頼むぞ」
と、ゲインズと共にトーハンの屋敷に戻っていった。
レベリウスは気が気でない様子で、屋敷の門の前を何度も行ったり来たりしている。
「親方!!」
ゲインズと孫六の姿を認めるや、レベリウスは足音を大きくして走り寄った。
「無事だったかい、親方」
「ああ、無事だ。ずいぶんと心配をかけたな」
「いや、親方が無事だったらそれでいい」
「ここではなんだ、屋敷の中に入ろう」
気が気でなかったのはトーハンも同じだったようで、ゲインズが戻ってきた時は、表情にこそ出さないものの、
「無事で何より」
と、声をかけて労った。
孫六とゲインズはソファのある部屋に通された。
「で、なにゆえマゴロクは襲われたのだ」
「さあ、それがしはとん、と分かり申さず」
孫六はトーハンからのたずねに対してとぼけた。
「そのようにしても無駄だ。あらましはゲインズから聞いているのだからな」
「そうであったか。ならば話は早い。ある文を渡された」
孫六は持っていた、あの手形の手紙を渡した。それを見たトーハンの顔が暗くなる。
「……、これがどういう意味か、お前は分かっているのか?」
「大方、向こうは儂のことを敵と考えたのであろう。そのことに心当たりはある。例の、道場主殿とゲインズ殿との一騎打ちの折、道場主殿が例の連中に襲われていたのを助けたことがある。道場主殿の仲間とみられている以上、敵となるは必定」
「……、言葉の端々はよくわからんが、要するにそういうことだ。厄介だな」
トーハンは手紙を孫六に返した。
「黒づくめの連中は、どういう筋の者か、教えてもらえんか」
「黒づくめの連中は、『黒いミサ』と呼ばれる集団の中で、要人暗殺などをしていた者たちです。その『黒いミサ』というのはその昔、このミレバル王国の中で起きた内紛に端を発した内戦を主導していた集団でしたが、内戦が終結する従って各地で捕らわれ、あるいは殺されたりして、壊滅していたはずでした」
「その連中は、闇に潜って生き残っていた、ということか」
はい、とゲインズがうなずく。
「なるほど、少し読めたな」
「なにが、ですか」
「道場主殿が襲われた訳よ。おそらく、ウラードから金で頼まれたのであろう。そう考えれば、律儀な奴らともいえるがな」
「ほめるような連中じゃありませんよ、奴らのためにつらい目に合っている連中がたくさんいるわけですから」
「それは失礼した。……、とにかく、その某とかいう連中は、儂の命が尽きるまでやってくるのであろう?」
「ええ、それは間違いなく」
「だとしたら、とんだ苦労だな。一度死んだ儂が、二度も死ぬものかよ」
「一度死んだ?」
ゲインズがあからさまな疑問の声を出した。
「そうよ、儂は関の町で、家族に看取られて死んだ。だから、こちらに来た時は死に装束であった。それは、レベのやつがよく知っておる。もしや、儂がここで死ねば、元の世界に戻るということなのか。……、まあ、考えても致し方あるまいな」
「ま、まあ、それは横において。……、とにかく、気をつけてください」
「レベのやつを一人前に育てるまでは、死ぬつもりはないわさ」
孫六は高らかに笑った。
カンタレスでの騒動は、当然ながら国王のケレマウスの耳にも届き、
「必ず見つけ出し、捕まえよ」
という命令が下った。同時に、トーハン・アーデンにも、すぐに孫六とゲインズ・アブールを伴って謁見に望め、という報せが届いた。
「王様に目通りせよ、と申されるか」
「あ。……、ああ、そういうことだ。国王陛下の命は絶対だ。でなければ、私の首が飛び、領地は奪われることになる。そうならぬために、一緒に来い」
「ご領主さまに言われれば是非もない」
「そうしてくれ」
カンタレスの王宮に入る孫六は、その華美な装飾を見るに及んで、
「どうにも目がちかちかして好かんな」
とつぶやいた。
「ここの王様というのは、派手なものが好きらしい」
「親方、あんまりいうと。……」
レベリウスが目くばせをするので、その方をみると、衛兵たちが等間隔で並んで立っている。
「聞かれても困るわけではない。現に、目がちかちかするのだからな」
それを聞いていたトーハンが思わず、
「あまりそういうことを言ってくれるな」
とたしなめた。
「しかし、目がちかちかするのは致し方あるまい」
「お前と一緒にいると、こっちまで冷汗が出る」
謁見に臨む。
孫六は直立していたが、ゲインズによって、片膝をつくように言われ、孫六はゲインと同じ格好を取った。
「しばらくすると、ケレマウス陛下がアマベル王妃と共に来られますので、それまではこのまま待っていてください」
「いつ来るのだ」
「おそらく、もうそろそろかと」
「早うしてもらえんか、床が硬うて膝が痛い」
「少しの辛抱ですから」
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