【イントレピッド海上航空宇宙博物館】

「この空母が博物館なんですか!?」



「え、ガルダ知らなかったの?何億年も生きてるのに。」



元アメリカ海軍空母イントレピッド。

それがそのまま博物館になっているのだ。



「長く生きていても知らない事は知らないんですよ。地球は広いですからね。」



「そっか。じゃあ、ガルダと楽しめる事ってまだまだたくさんあるんだ。」



「そうですね。でも、ディアとならどこに行っても新鮮で楽しめますよ。」



そう言ってガルダがディアを抱き締める。

ディアも嬉しそうにごろごろしていた。



「ディア、ラブんのは勝手だけど、子供達を見失うなよ。」



ライルの手を握ったティムが注意する。

小さな子供達が人混みに飲まれたら大変だ。



「大丈夫よ。万が一の事があっても二人一緒なら切り抜けられるから。ね、フラム、ホーク。」



手を繋いでいるフラムとホークが笑顔で頷いた。



「まあ、怪我する事はないから危険はないけどな。迷子になったら探すの大変だぜ?」



「あは、確かに。じゃあ、二人とも、ママ達と手を繋ごっか。」



ガルダとディアの間に双子が収まる。


横一列に並んだ家族はちょっと邪魔かも知れないが……家族連れとはそういうものだから仕方がない。



86番桟橋にある、潜水艦グロウラーとコンコルド。

巨大な展示物だが、空母艦の比ではない。


そのイントレピッドの飛行甲板上には各種航空機が展示されている。


館内にはスペースシャトル1号機エンタープライズもあり、レストランやミュージアムショップなどの各種施設もある。



「F-16にA-12か。俺はA-12の方が好みだな。」



戦闘機を眺めてティムが呟く。



「私は乗るならヘリコプターの方が良いわ。ホバリングとか垂直飛行とかできるし。」



「乗るならって、お前らには不要だろ?」



確かにと笑うディア。

ガルダが居なくても、マキアが居れば空を飛べるのだ。



「てゆーか、ティムだって不要じゃない。瞬間移動でどこにでも行けるんだから。」



「まあな。つーか、俺は乗るより見る方が好きなんだよ。」



だから航空ショーを見に来たのだ。



「ファルミナ?どうかしましたか?」



何やら遠くを見ている彼女に気づき、ガルダが声をかけた。



「あ、いえ。少し悪意を感じただけです。」



「悪意ですか……。」



頷いたファルミナの頭を優しく撫でる。

その察知能力は彼女の苦痛にもなっているのだ。



「小さな悪意なら放っときなさい。そうしないと押し潰されますよ。」



それは紛れもなく維持神の遺伝だった。


ヴィシュヌならその悪意の元と闘えるが、ファルミナは戦いの女神ではないのだ。

悪意を向けられる人を救えない事が、彼女の苦痛なのである。



「ガルダの言う通りだぞ?小さけりゃ大した被害はないんだからな。全ての悪意に責任を感じてお前が潰れたら……俺はその人間達を手に掛けてしまうだろうな。」



神々が人間を殺める事は許されない。

それをしてしまえば、その身を魔族に落とし兼ねないのだ。



「そうですね。お兄ちゃんの為にもそうしてみます。でも、これだけ人がいるとあちこちに悪意を感じてしまって……」



そう言って苦笑するファルミナ。



「だったら俺の愛を感じてろ。悪意なんか消してやるからな。」



額に口づけ、腰を抱いて引き寄せる。


右手にライル。

左にファルミナ。

仲良くべったりな家族の出来上がりだ。



「私もガルダとくっつきたい!ホーク、場所代わろっか。」



「はは、じゃあ、フラムはこっちにね。」



両端に子供達を移動して、ここにもべったりな家族が出来上がった。



それからしばらく館内を見物し、航空ショーを見始める。



「うわぁ、すごい……」



ホークとフラムが空を見上げてつぶやいた。


アクロバット飛行や上下逆さ飛行に垂直飛行。

その迫力や勇ましさに目を奪われる。


そしてパラシュート部隊の落下だ。



「ねえ、あれってヤバくない……?」



一人だけ開かないパラシュート。

そのままどんどん落下している。



「パラシュートが開かないんじゃないか?……どうする?」



ティムに問われ、ガルダを見るディア。

頷いたガルダが鷲に姿を変えて飛び立った。


ガルダが近づくと、隊員が焦った様子でグリップを引いていた。



「何でこんなに固いんだ!?」



どうやら固くて引けないらしい。

そこに警告音が鳴り始めた。



「わああっ!死にたくない!」



焦り、グリップを引きまくる隊員。

ガルダが彼の目の前に移動する。



「落ち着いて!私が引いてみますから、一度手を離して下さい!」



「ひいっ!鷲が喋っ」



死の恐怖と相俟って、叫んだ隊員が気絶してしまった。



「その方が好都合ですよ!」



足爪でグリップを掴み、グッと引く。

瞬間パラシュートが開き、そのまま身体を持って行かれた。



「ふう、慣れないGは気持ち悪いですね。」



緩やかに落下し始め、ほっと息をついた。



「とりあえず起こさないと……」



カツカツつつき、刺激を与えて意識を戻す。

目覚めた隊員が辺りを見回し、肩に乗った鷲を発見する。



「わ、鷲、喋った、よな……?」



だが答えない。

夢でも見たのかと、かぶりを振った。



「はは……。初めての抜擢で緊張し過ぎたか……。」



どうやら経験の浅い隊員だったらしい。

頬を叩いて気合いを入れた彼を見て、もう大丈夫だろうと離れるガルダ。


そのまま人気の無い場所に降り、人間に化身して家族の所に戻った。



「お帰り、ガルダ。原因は何だったの?」



「グリップが固すぎたようですね。無事に開いて良かったですよ。」



お疲れ様と微笑むディア。



「やっぱりパパはヒーローだね!」



「うん!神さまでヒーローだよ!」



フラムとホークが笑顔で飛びついた。

笑って二人を抱きかかえ、まだまだ終わらない航空ショーを眺める。



「結局俺達って仕事するんだよな。」



苦笑するティム。


小さなトラブルや大きなトラブル。

その場にいたなら解決せずにはいられない。


それがFLAGであり、天界人の務めなのだ。

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