第24話 皮肉な日記

【日記61ページ目】

 また、無視された……


 私の事、そんなに嫌い?


 悲しい、悔しい。


 こんなのは八つ当たり。


 でも、どこにぶつけて良いか分からなくて。


 私の投げた物が何かにぶつかって砕けるのも厭わず、荒れに荒れた。


 自分でもどうしようもないほどに。


 ビリビリに破き捨ててしまった千代紙も、もうない。


 大事にしてたはずのものが、一瞬でゴミに変わった。


 悲しい。


ーーーー


 美術準備室の石膏像に黙祷を捧げ戻ってきた僕はまた件の日記を眺めていた。


 この日はどうも機嫌が悪いようで字もかなりギリギリの文字だ。


 無事な1枚残っていたのか、可愛らしい千代紙の着物が貼り付けられていた。

……よく見ると、無数の切り傷が刻まれている。


【日記62ページ目】

 夏のホラー特集とかって最近のマイブームなんだよね。


 そう言えば学校の七不思議。


 理科室の掃除ロッカーと、理科準備室の秘密の薬。

 音楽室のピアノや肖像画。

 美術準備室の隠された肖像画に石膏像。


 どれもこれも怖いよね。

  ……本当かどうか分からないけど。


 でももっと怖いのが


ーーーー


 バカにしやがって!


 本当かどうか分からないだと?!


 たった今経験してきたわっ!


 ふざけるな!


 僕は読み進める内にどんどん怒りが込み上げてきた。


 冗談じゃない。


 何を考えてるんだ?!


 まだ日記を読んでいる最中にも関わらず僕は喚き散らした。


 本当に、冗談じゃない!


 僕の怒りは暫く収まることがなかった。



 ……


 …………



 気を取り直して、日記の続きを読むことにした。

 冷静さを欠いてしまったがこのままでは埒があかない。

 早くここを出るヒントを探さなければ。


【日記62ページ目(続き)】

 でももっと怖いのが

  踊り場にある真実を映し出す大鏡と、

  何度数えても13になる処刑人の階段だよね。下っているはずなのに、なぜか上ってるってところが1番怖いよね。


 真実って、実はすごーく怖い事だったりするよね。


 罪人は裁かれるべきだし。


 無意識の罪って残酷だってこと、みんなに知ってもらいたいな……


ーーーー


 罪って、何だ?


 無意識の罪とは、一体……


 日記の主は何を言いたいんだ?


 分からない。


 分からないが込み上げる、これは恐怖か?あるいは……


 僕は軽く首を振る。


 断片的に思い出す、取るに足らない小さな出来事。


 たまたま開いたノートの中身を見る事も。

 花を、いや日記を?落としてしまった事も。

 掃除ロッカーだって、壊そうと思ったわけじゃない。中の人を助けたかっただけだ。人命救助だろ?

 中身の骨格標本だって、最初から壊れてた!僕のせいじゃない!!

 薬だって、あんなヤバい薬、そもそも学校に置いとくなよ!ヤバすぎるだろ!!

 音楽室の琴や、意味不明にかけられてたズタボロ着物だって、僕は何もしてない!

 美術準備室の絵画も……そりゃ、布を取ってしまったのは悪かったかもしれないがあれは事故だ。石膏像だって僕が壊したわけじゃない!


 考えてみればここに来てずいぶん色々あったけど、全部僕は関係ないじゃないか。

 なんだよ、無意識の罪って。

 なんなんだよ、僕が何したってんだよ。


 毒吐きか、あるいは懺悔のように吐き出される僕の言葉に反応する者はいなかった。


 人が、いないのだから。

 

 ……疲れた。


 けれど結局、状況も何も変わりはしない。


 僕は重苦しい心身をかかえて廊下に出た。

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