第29話 わたしをさがして。
【日記65ページ目】
また、言われちゃった。
お前はいつもとろいから、見ていてイライラするってさ。
もっとちゃんと考えて、きちんと行動してって言われるの。
私はいつも空回りで、いつも中途半端。
どうして、私だったの?
道端に捨てられた兄弟達はもっとたくさん居たのに、どうして私を拾ってくれたの?
わがままで、聞き分けの無い私を。
不器用で、頭の悪い私を。
余計な事しかしない、疫病神な私を。
どうして、私だったの?
今でも、後悔しませんか?
まだ、私を……
ーーーー
日記はここで終わっている。
日記の主は養子縁組でもしたのだろうか。
様々な理由で親と居られなくなった子どもが里親の下で暮らしていくなんて話は、まぁ聞くよね。
……実際見た事はないけど。
しかし、なんだ?
まるで捨て猫が段ボール箱の中に大勢いて、たまたま自分が拾われましたみたいな言い方するな。
自分を犬猫の類と思っているのか?
やるせない気持ちになる。
頭を振って切り替える。
次のページをめくった。
【日記66ページ目】
勉強は嫌い。覚えるのも苦手。努力は更に輪をかけて苦手だ。
経験がないなら知識で補うしかないのにそれもしない。
だからどんどんダメになる。
……だから、ダメって言われるの。
言われるほどに距離が出る。
諦めるように突き放す言葉が胸に突き刺さる。
それでも動けないのは、私がまだ甘えてるからかな?
生きる事を諦められず、生き意地悪く続けてるから……
そうじゃないよね。
ほんの少し、小さな一歩を踏み出しても、まだ足りないって言われるだけ。
補わないと、できない分だけ。
だから足りない、もっと、もっと。
みんなすごいな。
それが許されていた過去と、それが許されない現在があるだけなのに、それが物凄く……辛い。
ーーーー
過去と現在、か。
足りないものを補うって、どれだけ大変な思いをしていたんだろうな。
僕にも足りないものは多い。
知識も経験も、臆病な僕には難しい事ばかり。
その内に、何もできなくなるんだよ。分かる。
……分かるなんて、分かったような口きいたら、日記の主は怒るかもな。それは怖い。
正直、共感はしてもそれが正しく共感しているかなんて分からない。
この手の人物はそう言う話には敏感だ。
ただの同情なら逆に気持ちを逆撫でるだけになるだろう。
そして僕は
またページをめくる。
ビリッ
え?……
手に力が入りすぎたか、破けてしまった。
人様の大事な日記だ。傷つけるなんてもっての外。
僕は慌てて破いてしまった日記を見た。
図書室。
ただそれだけ書かれていた。
日記は、ない。
つい今し方読んでいたはずの日記が、机の上から消えていた。
図書室。その一言を残し、消え去った日記。
……嫌な予感しかしない。
束の間の平和は、いとも容易く破られた。
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