中二病令嬢の更正なんか出来るわけない~冷酷執事に脅されて、更正係を命じられました~

874

1章 中二病令嬢の更正なんか出来るわけない

第1話 中二病の過去なんて見せれるもんじゃない

 春の日差しが埃を舞わせながら、今日越してきたかと言わんばかりの段ボールを山々を照らす。


 中にはパワーストーンに龍の剣のストラップ。竜の眼と称された指輪、トゲのついたブレスレット、そして“真理”と呼んでいた痛いポエムノート。


 これは言わば中学三年間で築き上げた、中二病の集大成。


 その残骸たちを、昨日一日かけてきれいにまとめたのだ。


 制服のネクタイがまだしっくりこない。首元を締めながら、真城一真はふうっと息を吐いた。


 今日は高校の入学式。


 つまり、人生の仕切り直しの日だ。


「……さて。けじめ、つけるか」


 最後の仕上げ。デスクに座り、パソコンの電源を入れる。


 お気に入りから、あるブログにアクセスする。


 タイトルは『真理を延べし終焉』。


 自分が中学時代に毎日のように書いていた、誰に見せるでもない“理論”や“考察”や“痛いポエム”が並んでいる。


(……こんなの、よく堂々と載せてたよな)


 久しぶりに見ると、赤面するほどの黒歴史だった。


(まぁこんなブログにも、毎日のようにコメントをくれる物好きもいたけど)


 名前は思い出せない。というより、見ないようにしていた。


 自分の恥部を真剣に読んでくれる誰かがいたという事実が、逆に居心地を悪くしていたのかもしれない。


 マウスカーソルを「削除」ボタンの上に重ねる。


 「……」


 手が止まる。


 昨日までは、思い切りよく何でも捨てられたのに、なぜかこれだけは指が動かない。


 ログアウト。


 それが、今の俺にできる限界だった。


 ウィンドウを閉じて、背もたれに体を預ける。


「よし。これで、俺はもう"中二病"じゃない」


 そう思った。


 だけど。


 この“ログアウト”の判断が、良くも悪くも、俺の人生を大きく振り回すことになるなんて。


 当然、そんな未来が待ってるなんて、このときの俺が知るはずもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る