数珠使いのプライド
ハナビシトモエ
初めての彼女
「あー、また壊れた。まさゆき君が作ってくれた幸運の数珠」
なんでブレスレットと言わないか彼女に訊ねると「まさゆき君って古風だからそれに合わせて」なんて可愛いことを言ってくれるので、ばあちゃんから伝授された祈りの数珠を渡すのだが、なぜか爆散する。糸が切れるでも数珠玉が割れるでもなく爆散だ。
その度に、またかと頭を抱える。
あまりに辛かったので、ばあちゃんに彼女をみてもらった。
「うーん、これと言って。正幸ちょっと来なさい」
隣の部屋に呼ばれた。
「お前、彼女と同衾したか」
「同衾?」
「寝たか」
さすがにここまで言われたら分かる。
「まだ高校生だぞ」
「もう高校生だ」
ばあちゃんは早々に亡くなった両親の親代わりだ。
「お前の作る数珠は下心が入っている。本当はしたいのだろう。せっ」
「分かった。一か月だ。一か月でどうにかしてくる」
僕は彼女に新しい数珠を渡した。その上でどこかに遊びに行こうと誘った。
「いつも遊んでいるじゃん、変なの」
小首をかしげて、ぱぁっとした笑顔をくれるだけで僕は幸せです。
さて一か月とばあちゃんに言ったら、一週間と言われてしまった。議論を交わした結果、一週間でキスという結論に至った。
「その景色のきれいなところ。池高山の展望台とか」
「高いところは得意じゃないかも」
そうなんだ。高いところは好きじゃないんだ。
「園川の遊水地は」
「水に濡れると風邪引いちゃう」
そうか。確かに風邪を引いたら大変だ。
「ひらかたパークは」
「そういうところはもっと仲良くなってからじゃない?」
ひらパーこそ初めてにいいだろう。
「休日のひらパーって人がたくさんで酔いそう」
遊園地は混むよな。
「学校帰りに本屋に行こうよ」
「私、本読まないし」
「おすすめの本を教えてあげるよ」
んー、それくらい。と、つぶやいた。
「じゃ、今日行こうよ」
「え、今日?」
「思いついたらすぐ行動だよ」
大阪駅の蔦屋書店には静かな空気が漂っている。スタバに寄らずとも回廊に展開されている本は僕の心を休ませてくれる。この時点で僕の評価はうなぎ登りだ。
ここは文学的知識を披露しよう。
「読みやすさではもちろんライトノベルが一番に挙げられるんだ。涼宮ハルヒの憂鬱なんてのはアニメ化もされていて、映画化にもなっていて入り口はまずは読んでもらってからなんだけど、もう少しこだわりがあると言ったら、僕が好きな暗幕のゲルニカとか、怖いのがいいなら営繕かるかやシリーズとかはいいかな……」
「す、すごーい。ものしりなんだね」
決まった。ここでやっと僕のターンだ。ルクアの外は今日は過ごしやすいらしい。そこでキ、ちゅうをするのだ。
「あ、時間だ」
蔦屋滞在一時間、まだ見るところはいっぱいあると言うと。
「うーんでも私、本よく分からないかも」
色々お話出来るのに、キスだってまだ。
パーンと数珠が弾けた。
「もう数珠もいいかな。また学校で」
もう数珠はいいかなが脳内でリフレイン。
彼女が向かったのはルクアの最上階だ。まだ話したいことがいっぱいある。何が好きか聞きたい、どんな色が好きで香りや化粧品。そんな話がたくさんある。
彼女は男と手を組んでいた。先には映画館。
「ちょっと、ちょっと待ってよ」
振り返るのは怪訝そうな男の子。陰が薄いとされている男の子だ。そうモテる方ではない。
「何、誰君。ふゆちゃん、知り合い?」
「知ってる程度の人」
「君ともっといっぱい話したい。映画のチケット取るよ。三人分、楽しみだな」
「まさゆき君には関係ない」
「付き合っているだろう。僕たち」
「付き合っていないから、でも仮にそうなら一度だって私の名前呼んでくれなかったね。また学校で」
そうだ。また学校で会える。また話せる。
次の日から彼女は何者から守られるように男子が話すことが出来なかった。いや違う、僕だけだ。
「まさかあれから一週間で袖にされるとは、何をしたらそうなる」
「僕は全力を尽くした。きっと僕に見合う女の子が見つかる」
「そのプライドの高さが仇なのか」
「ばあちゃん、何か言った?」
数珠使いのプライド ハナビシトモエ @sikasann
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